その当時十四歳だった高倉豊は、江藤詩織に思い焦がれていた。その気持ちを断たなければならなくなる直接の原因が、岡島竜彦の存在にあるのは明らかだった。どうにかして、二人の仲を引き裂いてやりたかった。岡島竜彦が学校から居なくなれば、二人の仲は疎遠になっていくに違いないという、一途な思い込みが高倉豊にはあった。

そしてそのことが、赤穂市教育委員会への苦情の電話を掛けるという、思い切った行動を高倉豊に取らせた。しかもそのひらめきは、くしくも岡島竜彦から得たものだった。

夏休み中に赤穂市内から同じ赤穂市内へ引っ越していた岡島竜彦の家は、今まで通っていた第二中学校ではなく第三中学校の学区内に変わっていた。しかし岡島竜彦は、同じ市内へ引っ越しただけなのだからと、それまで通りに登校を続けていた。

そうした考えはもちろん彼の両親も同じで、引き続き同じ中学校に通えるようにするための、事務的な手続きを踏んでいなかった。つまり、本来なら第三中学校に通うべき生徒に、岡島竜彦はなっていたのだ。

しかしそのことについては、歩く距離が倍になっただけのことだと岡島竜彦から高倉豊は聞かされていたし、いい運動になるよと笑って話す岡島竜彦の様子から、当初は大した問題ではないと考えていたことが窺われた。

岡島竜彦がそれを、自分の平穏な日常を脅かす問題として認識し始めたのは、十月になってからだった。この月の上旬に彼は、同じ自治会の一人のおばさんに、あなたは何で第二中学に通っているのかと聞かれた。岡島竜彦が二中の生徒だからと答えると、ここの地区の子はみんな第三中学に通わないといけないのだと、非難するような口調でおばさんに言われた。

ほっといて下さいよと岡島竜彦は言い返したらしいのだが、とても嫌な感じがしたし、何か良くないことが起こりそうな気がすると、その不安を高倉豊に打ち明けていたのだ。高倉豊はその話を思い出して、利用したのである。

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