綾子さんはどこに?

島洋子の最後の方の口調はとても意地悪な感じのもので、北村大輔に八つ当たりをしているようでもあった。彼女がそんな風になるのを、北村大輔はそれまで一度も見たことがなかった。彼が尋ねたことの裏側にある、意図を敏感に感じ取っていたからなのかも知れない。その証拠に島洋子は直ぐに言葉を続けた。

「だからって私は殺したりしない。それじゃあ、あの人と同じやろ。法的には何も問題ないけど、あの人は人殺し。人を罵ってやり込めることに喜びを感じているかわいそうな人。死ねばいいとは思わないけど、自業自得かも知れない。誰彼なしに食ってかかるから、恨みを買うことになるんやわ」

「他にも純子叔母さんを恨んでいる人が居るんですか」

「私以外にもってことやろ」と島洋子が言った瞬間、北村大輔はしまったと思った。失言だったが、言ってしまった以上、取り消すことは出来ない。彼は、「悪気はないんです」と言うのが精一杯だった。

「いいんやで。大ちゃんは警察官なんやし。疑うのが仕事やから。でも私を疑っているのなら見当違いやで。私は純子さんを恨んでいるけど、そんなことで殺したりはしない。だって、洋二郎が死んでから、十七年が経っているんやから。もしもっと早くあの人が洋二郎にしたことを知っていたら、殺そうとしたかも知れない。まだ二人の死を、受け入れることが出来ないうちに知っていたら。

でも今は違う。どんなに悲惨で苦しい出来事でも、その記憶は少しずつ薄れていくんやで。今になって知ったところで、純子さんを殺そうとは思わない。だからあの人が殺されそうになった日に、私はあの人の家には行っていない。これは同じことを、刑事さんにも話したから。でも、納得出来なかったみたいやね。今度は、大ちゃんを来させるんやから」

「それは違います」透かさず北村大輔はそう言った。

「これは捜査本部の意向ではないんです。ただもしそうなら、自首をと。でも完全に勇み足だったみたいですね」

彼は、高倉豊に頼まれてここに来たとは言わなかった。あくまで、自分の意思で来たというような話し方をした。それは嘘を吐いているということになるのだが、捜査本部の意向ではないことは本当だったので、その分罪悪感は薄れた。