開き戸を開けた島洋子は、控え目な笑顔で北村大輔を歓迎してくれた。聞きたいことがあると北村大輔が言うと、島洋子の表情は一瞬曇った。だが彼女は、直ぐに元の控え目な笑顔に戻り、北村大輔に中に入るように促した。

彼は、四人掛けのダイニング・テーブルに案内された。島洋子は冷蔵庫からペットボトルを、食器戸棚からはグラスを、それぞれ取り出して、緑茶の入ったグラスをテーブルに置いた。

椅子に腰掛けていた北村大輔は「済みません」と言った後、一口だけ飲んだ。そのときの、ごくりという音が、彼にはとても大きな音に聞こえた。実際はそんなことはなかったのだが、これから話すことを思うと、神経が高ぶってきていたのだ。この手のことは、時間を置けば置くほど聞き難くなるものだ。つまり、ためらう前に言うしかない。そしてそれは今この瞬間なのだ。

「洋二郎さんが亡くなった原因は、純子叔母さんにあるんじゃないでしょうか」

「そうやね」

島洋子があっさりと認めたので、北村大輔は拍子抜けしてしまった。何だか、自分の推測は間違っているのではないかという予感がした。

島洋子はペットボトルを冷蔵庫に仕舞うと、北村大輔の正面の椅子に腰掛けた。そして彼女は、咳払いをした後、話し始めた。

「純子さんは今年の七月になってから、ようやく告白してくれたんや。あの人はな、洋二郎を罵ったんや。勝手に洋二郎の部屋に入って、あんたは、今まで努力したことあんのか。食事のときに偉そうに、兄貴は努力家で中卒のハンデを克服しようとして頑張っていたって言うとったけどな、あんたはどうなんや!? 人のこと批評出来るほど頑張って生きてきたんか!

みんな頑張って生きてる。お兄さんも死んだことやし、これからはお兄さんの分まであんたも頑張らないかん。あんたにとっては、ただの兄かも知らんけどな。洋二郎は号泣していたそうよ。純子さんは、洋二郎をやり込めてさぞ満足だったでしょうね。純子さんが部屋を出て間もなく、洋二郎はあんなことになった。

責任を感じたし、ずっと自分を責めて生きてきたけど、言えなかった。純子さんは、申し訳ありませんって、手紙に書いて送ってきた。それがどうしたって言うのかしらねえ。自分の罪悪感を解消したいだけやろ。洋二郎は死んだんやで。謝罪してくれたって、生き返る訳ではない。腹が立って、手紙をくしゃくしゃにして燃やしてやった」

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