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渋谷の喫茶店、午後6時。あかねは希代美が来るのを待っていた。人を待たせるのに慣れているあかねも、自分が待たされる身になるのは大嫌いだった。しかし今日のあかねは気分が良かった。光彦と淳美の離婚報告を受けたときのことを思い出し、知らず知らずのうちに頬が緩んだ。

(私の勝ちね。まあ、最初からわかっていたけど。これで光彦は私のもの。あっちゃんがあんな手紙を置いてくれたから。皮肉なものね。これこそ自業自得よ。とても不思議だけど、人生が良い方向に進んでいるようね。一度は光彦と別れたけど、そのおかげで前の旦那から多額の遺産を手にすることができた。これで光彦を取り戻せれば万事うまくいくというもの。

やはり幸せになりたければ、それを求めて行動しないとダメ。あっちゃんにはそれが不足していたんだわ。まあ、三年間だけでも幸せな生活ができたんだから、あっちゃんも満足だと思わないといけないわ。これであっちゃんとの縁も完全に切れるだろうけど、すべて手に入れるなんてどだい無理。一つくらいは何かをあきらめなければいけない)

「お待たせしてすみません」

希代美が息を切らせて、あかねの向かいの席に座った。

「それほどでも。私も今来たところだから」

あかねの声は暗い店内に明るく響いた。

「あなたからの依頼につきましては、ご満足いただける結果が出せたと思っております」

「もちろん満足よ。正直言って、まさかこんなにうまくいくとは思っていなかったわ。ありがとう」

「私が確認しましたところ、高沢光彦、淳美夫妻は昨日区役所へ離婚届を提出しました」

「わかってるわ。謝礼はこちらに入っているから確認して」

あかねはシャネルのバッグから銀行名の入った封筒を差し出した。

「中身につきましては信用させていただきます。ありがとうございました」

希代美は封筒を自分のバッグの奥に押し込んだ。

「あまり長居はしないほうがいいと思いますので、これで失礼いたします」

希代美は店の中を一回り見渡すと、足早に店を出ていった。あかねはゆっくり5分かけてレモンティーを飲んだ。