次の日、英介は朝早く起きると、いつものように眠い目をこすりながら裕美とおはようの挨拶をし、顔を洗い、食卓に着く。食卓には、既にご飯に焼き魚と味噌汁という、特段豪華というわけではないが、品のいい食事が用意されている。英介は新聞を読みながらこれを食べると、トイレを済ませてから裕美に今日の予定を話し、そして家を出た。

英介は会社の工場の制服を着てのいつもの出勤風景である。子供と一緒にご飯を食べてから出る時もあるが、今日は打ち合わせがあると言って子供がまだ寝ているうちに家を出ることとなった。

英介は足早に歩くが、当然に駅へと向かうかと思いきや、途中のマンションの構内に入っていく。その工員の服装には明らかに不釣り合いな高級なタワーマンションである。マンションの敷地の入り口から住居棟の入り口までの間は離れており、その間に高級車がたくさん止まっている。その高級車の並びの前を歩く英介の姿は、マンションの管理業者でなければ、泥棒ではないかと思われるような怪しささえ感じられる不釣り合いさなのである。

住居棟の入り口はセキュリティーのために暗証番号を押さないと開かない自動ドアとなっている。英介はそれをピッ、ピと押して簡単に開けると中の管理人に挨拶をして奥へと消えていった。そして10数分後に出てくると、見事な高級スーツに変わっており、マンションの車寄せには黒塗りの高級車が待っていて、運転手がドアを開ける。英介を後部座席に座らせると、その黒塗りの高級車はゆっくりとマンションの敷地から出て行った。

裕美は、子供たちを起こすと、また食卓には、品のいい焼き魚と味噌汁の朝ごはんが用意されている。二人は特においしそうに食べるわけでもなくもくもくと食べてはいるが、それでも残さず食べ終えていることから、やはりおいしいものであることが分かる。

食事を終えた二人を学校に送り出すと、裕美は普段着のまま家を出た。そして、裕美も勤務先に向かうべく、駅の方に歩いて行くのだが、これまた英介と同じ高級マンションに向かい、高級車の並びの前を通って住居棟に行き、入り口のセキュリティーをこれまた簡単に解除して入っていった。

そして、こちらは英介より少し時間がかかり、30分後くらいに出てくると、こちらもまた豪華なスーツ姿だった。そして、また別の高級車が車寄せに入ってきて運転手がドアを開ける。裕美もその高級車に乗り込むと、その高級車はそのマンションの敷地から出て行った。