光彦の告白を、淳美は何のためらいもなく笑顔で受け入れた。光彦と淳美の交際はこうして始まった。

あかねの対応はこのときも早かった。

『会社を辞めて結婚します』

光彦にメールが届いたのは、淳美と付き合いだしてわずか3か月後のことだった。光彦は内心ホッとしていた。

(これで淳美も何の気兼ねもなく僕と付き合えるだろう)

それから半年後、淳美の26歳の誕生日に光彦はプロポーズした。

「よろしくお願いします」

淳美の返事に光彦は天にも昇る思いだった。

二人の結婚生活は順調に進んでいた。子供を授かることはなかったが、それでも光彦は幸せだった。そこに再びあかねが現れた。それがただの偶然だったかどうかは光彦にもわからなかった。日本橋のデパートで、あかねが突然後ろから声をかけてきた。夫が亡くなり、東京に戻ってきたばかりだと言う。

「もともと旦那のことは好きじゃなかったの。あたしが好きなのは今でも光彦一人。浮気されてカーッとなっちゃって。とにかく遠くへ行きたかっただけなの」

(面倒くさいことにならなければいいが……)

しかし光彦の悪い予感は現実のものとなった。もちろん光彦に強い気持ちがあれば避けられた現実ではあったが。光彦は執拗なあかねの誘いを断り切れなかった。優柔不断な自分に自己嫌悪を覚えながらも、あかねとの浮気を続けた。

そして昨夜、あかねから淳美に浮気を疑われていると聞いた。今このときが引き際だと光彦は考えた。光彦に淳美と離婚するという選択肢は初めからなかった。

(淳美はあかねとの浮気を絶対に許してくれない。もしばれたら離婚しなければならないだろう。あかねとは早く別れなければいけない。でも、あかねが前のようにあっさりと引き下がるとも思えない)

淳美が手紙を見せてくれた朝、光彦はいつか何かの役に立つかもしれないと、淳美がいない間に電話番号をメモしておいた。

(いたずらの可能性が高いだろうが、とにかく連絡だけはしてみよう)

光彦は手帳を取り出し、携帯電話のボタンを押した。

「はい、のぞみ企画です」

若い女性の声が答えた。

「あの、浮気相手と面倒を起こさないで別れたいのですが」