光彦はベッドから上半身だけ起こすと、隣に寝ているあかねに話しかけた。

「淳美が僕たちのことに気づき始めているって本当?」

「だって、あっちゃんから直接相談されたんだから。あなたが浮気してるんじゃないかって。まさか相手があたしだとは思っていないみたいだけど」

「どうするつもりだろう?」

「相談されたから一応は浮気調査してもらうか、もう直接あなたに聞いちゃえばって言っておいたわ。まあ、あたしの見たところでは何もしないと思うよ。あっちゃんとはあなたより長い付き合いだよ。あの娘ってなかなか結論出せない人だから」

「そうか。でもしばらくは様子を見て、会うのは控えたほうがいいかもしれない」

あかねは好きな男ができると、その人に彼女がいようと、自分のものにしないと気が済まない性格の持ち主だった。そのくせ、相手が浮気しようものなら決して許すことができなかった。付き合っていた光彦が淳美と二人だけで会っていたと聞いて、あかねは怒りを抑えることができなかった。勢いで光彦と別れたときは清々した気持ちでいたが、時間が経ち、光彦と淳美が付き合い始めたのがわかると、逃した獲物の大きさに悔しさが込み上げてきた。忘れるために好きでもない男と見合い結婚したものの、光彦を取り戻したい気持ちは日々強くなるばかりだった。

夫が亡くなるとすぐに、あかねは行動を開始した。世間体を気にする義理の両親の言葉を無視し、一人で東京に戻ってきた。淳美から光彦を奪い返すために。光彦の気持ちを操る自信はあった。しかし光彦の淳美に対する愛情の深さを知るに及んで、その自信は傾きかけていた。自分と浮気しながらも、光彦には淳美と別れる気はさらさらないようだった。それどころか光彦は自分と別れようとしている。

「もしもし、のぞみ企画ですか?」

「はい、そうです」

「チラシを見たんだけど。ある夫婦を別れさせてもらいたいの。詳しいことはどこかで会って話したいんだけど」

「わかりました。こちらからお電話をおかけ直しいたしますので、お名前とお電話番号をお教えください」

「わかりました。名前は……」

淳美が陶芸教室に通うようになったのは、やはりあかねからの助言があったからなのかもしれない。

「いいんじゃないか。淳美も一日中家にばかりいるとストレスが溜まるだろう」

光彦も淳美の陶芸教室通いをあっさり承諾してくれた。