フィリピンの現代史

正嗣は一人だとショッピングセンターをぶらぶらするだけだったので、丈と行動を共にすることした。丈と知り合ってから何回となく、一緒にサウナに行って食事してゴーゴーバーをはしごしてといったべったりした付き合いをすでにしていた。

その日はプルメリアを出て、まずはマビニ通りにあるサウナに行った。そこはすでに丈と何回か行ったことがある所で、スチームサウナに入った後マッサージを受ける。マッサージルームは真っ暗でそれぞれ個室になっている。しかし、隣の部屋との境は薄い板のパーティションで、入口はカーテンのみだ。そんな造りだから、もちろん本番は無理だ。

マッサージ嬢は一通り揉み終わると、太もも辺りを刺激し、耳元でDo you wanna have sensation?”と呟く。初めてここでそう言われた時、〈センセーション〉という言葉の響きが妙に刺激的だった。何かすごいことをしてくれるのかと期待しながら“Yes!”と答えると、手で処理してくれるだけだった。まぁ安いのだから、こんなもんかと納得したが。

その日も出すものを出してすっきりした後、丈のホテルへ行き正嗣はラウンジで彼が仕事を終えるのを待った。

しばらくすると、ホテルの玄関に赤と白のツートンカラーの大型バスが二台止まるのが見えた。ロビーを横切り中二階へ続く階段をぞろぞろとバスから降りたシアー客一行が歩いていく。四〇~六〇歳の男性ばかりの一団だったが、やはりこういうグループは異様に見える。なぜフィリピンには日本の若い女性客は少ないのだろう、と正嗣は中二階へ向かって歩いていく人たちを見てふと思う。

二台バスのツアーのチェックインを終えた丈がもどってきて聞いてきた。

「さて、今日は何を食べましょうか」

「その後飲みに行きますか」

「もちろん」

「じゃあ、近場にしましょう。ジャーマンでいいですか」

「『リリーマルレーン』ですね。あそこのカリーヴルストは本当にうまいよね」

二人はホテルを後にデルピラール通りへ向かって歩いた。

リリーマルレーンは正嗣が最近よく行く店の一軒で、デルピラール通りの一番活気のある場所にあるドイツ風の居酒屋だ。店の周りは全てゴーゴーバー。一人で来てもカウンターで静かにビールを飲めるのがいい。ソーセージと付け合わせのブラートカルトフェルンというじゃがいも料理だけでお腹も一杯になる。

店の片隅の黒板にはブンデスリーガの試合結果が書かれている。ドイツに行ったことはないが、それらしい雰囲気がここにはあった。全く意味は分からないが、店の中で他の客が交わすドイツ語会話も耳に心地よかった。