Ⅴ 彷徨カルチェ・ラタン

パリの二夜が終わり、三日目の朝になった。ホテルのカウンターで午前十時のチェックアウトを済ませる。バゲッジはホテルで預かってもらった。さて、どこをぶらつこうか。

まず一日目の夜に彼とデートした道をたどる。落としたハート型イヤリングが転がっていないか、またも探しながら歩いた。しかし、イヤリングは見つからず、私のハートはサン・ジェルマン・デ・プレに置いてくるかたちとなった。

それから大通りにある老舗カフェ、レ・ドゥ・マゴに思い切って入る。フランス語は上手ではないけれど、ここは少し知ったふりして迷惑がられないようすれば大丈夫だろう。中に入ると、どこに座ってもいいと言う仕草をされる。適当なテーブル席について、特にメニューもなかったような、私の席には置いてなかったような。

注文を取りに来たのでコーヒーを注文すると、なにやらフランス語で聞いて来たので「Oui(ウィ)」と返事をする。この際、何か確認してきたらOui(ウィ)と返事をしておけばスタンダードが出てくると、第六感のようなものをこの二日間で培った。もしかしたら神様が私を助けてくれているのかもしれない。日本と違って大きな教会や鐘が身近にあるせいか、イエス=キリストが近くにいるように思える。『神は細部に宿り給う』というキリストの精神がひしひしと感じられる。

ほどなくして出てきたコーヒーはデミタスで、小さなカップのソーサーにはお店の名前が入った小さなチョコレートが添えてあった。深みどり色の包み紙がお店の歴史を物語っていた。コーヒーはデミタスのままではきついので、ミルクをもらった。我慢してもよかったのだけれど、それほど混んではなかったので「ミルクをください」とちょっぴりフランス語をがんばった。さすが老舗だけあって客種の水準も高く、次回はお洒落してリヤードと来たいと思った。

私は彼と行ったカフェをもう一度見たくてフール通りに出る。途中で彩子にストッキングをちょっと敷居の高い店で一足買ったものの、今度は比較的に気軽な靴下屋さんが目に入り、私は飛び込んだ。(くるぶし)までのソックスにチュールレースリボンがついたイタリア製のものがあり、迷わず買う。相談相手の久美ちゃんへは小さなピンクのリボンが付いたものにした。

イタリア輸入品をパリで買う、これが一番だ。イタリア製をイタリアで買うと、お洒落偏差値75になってしまい、とても日本で活用できない。フランス製を買ってくると、これまた日本では甘すぎるテイスト。だから、イタリアとフランスの融合がとにかくベスト。ちょっとリボンが大きすぎるかとの不安もあったが、それは杞憂に終わった。ちなみに日本で履いて句会に出るととても好評で、私のとっておきの靴下となった。

抱擁に失せし夜霧の耳飾り