車で乗り付けたらしい、総勢十人ほどのグループ。いらいらしながら、立って待っている。噂の監査官たちだろう。指示を出しているリーダーは、痩身で小柄。真っ青な瞳に、ブロンドの髪。彼を含めた外国人が、中心メンバーのようだ。

富井田課長の姿も、チラッと見えた。どうやら、一緒に来たらしい。

秀造が、リーダーらしい若い男に歩み寄り、素っ気なく握手を交わした。金髪の男は、苦虫を噛み潰したような表情だ。

「烏丸サン、既ニ我々ガ到着シテカラ十分、時間ヲ無駄ニ費ヤシテマス。監査デ減点サレテモ仕方ナイトコロデスヨ」
リーダーは、外見と裏腹に、東京弁を流暢に操った。

「スティーブン、申し訳ない。だけどこれ以上は、時間を無駄にはさせない。準備はできてるから、監査にかかって下さい」

スティーブンと呼ばれた男は、短くうなずいたが、すぐには動き出さなかった。

「今年カラ、有機農法ヲ始メタ田ンボハ、残念ナコトヲシマシタネ」
「仕方がない。また来年、一からやり直すよ」

次は、秀造がいらいらする番のようだ。

「本当ニ、今年ハ田ンボヲ見ナクテモ良イデスカ? 人員ハ、揃エテ連レテ来テマスガ?」

「監査しても無理なのがわかってることに、時間を割いてもらうわけにはいかないから。今年は、継続監査だけで、結構!」

秀造のキッパリとした言葉に、スティーブンが、再びうなずく。今度は、サっと動き出した。

「早速、取リ掛カラセテモラウヨ!」

彼が先導し、メンバーたちが、一糸乱れず事務建屋の奥へと向かう。何度も来ているのだろう、手慣れた雰囲気だ。

見ているうちに、先ほどの税務調査室に入って行った。予め担当が決まっていたのか、各自が迷いもなくファイルを開き、内容をチェックし始める。

スティーブンの動きは、特に目立つ。キビキビと動き回って、あれこれ指示を出していく。担当者たちの問いにも的確に応えながら、指示を出し続けているのは、見ていて気持ちが良かった。

玲子が、表の広場に出ると、葉子たち三人と、富井田課長の話が盛り上がっていた。
オーガペック(有機農産物及び有機加工食品の日本農林規格登録認証機関)の悪口らしい。

「トミータさん。なんで、秀造さんは、オーガペックなんかに頼んでるんでしょう? 有機認証の団体なんて、星の数ほどあるのに。一番、評判悪いですよね」

葉子が、オーガペックのいる部屋を睨んでいる。

「その通り! 頼むに事欠いて、オーガペックとは! まったくもって、最低ですよ。僕は、ずいぶん前から、あそこだけはやめた方がいいって、言ってるんです」

富井田課長が、唾を飛ばし、大きくうなずいた。

「あそこはですね。ものすごく悪評高いんです。普通、年一回しか来なくていい検定員が、何回も押し掛けて来る。それも、全く必要ない時期に。しかも、必要以上の大人数です」

「交通費と宿泊費は、申請者持ちだって聞きました」

「ヨーコさんの言う通り。その上、認証料は、相場の十倍以上。おまけに、申請した田んぼだけでなく、関係のない周囲の田んぼにまで、勝手に立ち入り、見て回る。近隣の農家とは、必ず悶着を起こしてます」

富井田課長は、相当オーガペックに痛い目に遭わされたらしい。明らかに、敵視している。