まえがき

本文中の脚注1~79は、『波』の中でもひときわ美しく、ウルフの文体を代表する文章です。

本書後半の「対訳・翻訳比較」では、これらを原文と対応させながら、私がどの様な方針で翻訳したのかを解説します。従来の訳注ではありませんので、素直に『波』を楽しみたい読者は、どうぞ読み飛ばして下さい。

一方、『波』の美しさやウルフの文体を原文からじかに感じ取ってみたい読者や、翻訳に少しでも関心のある読者は、全体を読み終えた後で結構ですので、是非読んでみて下さい。

また、『波』は解釈の自由度が高く、さまざまな翻訳文体が可能です。これを読者に体感していただくため、『波』の代表的翻訳である鈴木幸夫氏訳(1954年)、川本静子氏訳(1976年)、森山 恵氏訳(2021年)の該当箇所を、論評無しで引用させていただきます。

本書を読む参考にしていただくため、ここで翻訳方針の要旨を記しておきます。

第一に、意識の流れに寄り添うため、可能な限り語順やフレーズの順番に忠実に翻訳しました。

第二に、意識の流れに臨場感を出すため、“I SEE”など五感を直接示す言葉は、必要な場合を除き訳出しませんでした。

第三に、意識の本流に折り重なって流れる支流を〈 〉でくくりました。最後に、読者の意識の流れを中断させないため、地名・人名などの訳注は施しませんでした。

では、ウルフ渾身の『劇詩Playpoem』をお楽しみ下さい。