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どんだけ青天の霹靂やねん

一体何を言われているのかわからなかったが、促されるままにサインをし、ボディチェックを受けた。

「ポケットの中の物、全部出して」

と言われて、テーブルの上に並べていったが、出るわ出るわ……。翌日引っ越し予定のため、普段持っている財布や携帯電話以外にも、通帳やキャッシュカードに印鑑、健康保険証にパスポート、携帯周辺機器、引っ越し屋に支払う現金、常備薬、口寂しい時のおやつまで、あらゆる物を身に着けていた。

それらを収納するために、(暦の上では立秋はとうに過ぎたとはいえ)この8月の日に、見るからに暑そうな、ポケットの沢山付いたベストとカーゴパンツを着用してもいた。

怪しいことこの上ない。まるで、逃亡する気満々みたいやん。さすがの捜査員の面々も、呆れ顔であった。

僕に寄り添って平和に眠っていたラーは、いきなり大勢の見知らぬ人間が部屋に入ってきたことにパニックになり、ソファーの下に隠れた。上の階では、僕の部屋の捜索も行われていた。

後でオカンから聞いたが、そちらは、近畿厚生局(厚生労働省)ではなく、大阪税関麻薬捜査課(財務省税関監視官)のチームだったらしい。彼らは、机の引き出しやクローゼットの中も全て開け、衣類や郵便物、常備薬、洗っていないマグカップまで、ひとつひとつ、複数人の目で確認しながら、ダンボールに入れる物、残す物を分類していった。

幸か不幸か、翌日の引っ越しのために、わかりやすく整理して梱包してある物も多数あった。捜索って、こういう風にするのか……まだ実感が湧かず、まるでドラマでも見ているかのように、ぼーっと眺めていた。

そこへ、さっきの迷彩服と、無表情で背の高いジーンズ姿の捜査官とが、質問をしてきた。迷彩服は、周囲から「上席」と呼ばれていた。

「海外から、よく物を買っているね」

「ネットに出店しているのか?」

「親しい友人は? ここに訪ねてくる者は?」

オカンも、同様の質問を受けたらしい。後日、何と答えたかと尋ねると、

「息子は、仕事道具からおやつまで、ほとんど海外通販を利用しています。海外から直接まとめて買う方が、同じサプリメントや医学書でも、安いし選択肢も豊富やと、よく話しています」

「昔コレクションした洋画のパンフレットやグッズなどを、時々、売っているようです、けっこう人気があるそうです」

「息子は、岡山に住んでいる中学時代からの親友の他には、お友達はいません。その子が年に3回か4回、京都に帰省した時に来る以外には、誰も訪ねてくる人はありません」

……まあ……そうか。