四 アメリカ第二の故郷

家は、ロータリーの道路沿いに建ち並ぶ家々の一軒で、赤と白のかわいらしい二階建ての家だった。玄関に入るやいなや、妻らしき女性にハグされた。

「ほんとによく来てくれたわ。」

と、喜んでくれた。彼女は、自分の名前を言う前に、ハグしてくれた。そして、家の中を案内しながら自己紹介した。家には、ケルシーと、一歳違いの弟のブライアン、そして、まだ二歳か三歳かの妹がいた。ケルシーは、とても嬉しかったらしく、地下の自分の遊び場を案内してくれた。そこには、卓球台やたくさんのおもちゃが置いてあり、彼と彼の弟の世界が形となって表されていた。

二人は、その一つひとつのおもちゃを出しては、遊び方を教えてくれ、一緒に遊ぼうとした。広い地下室でかくれんぼやおもちゃのガンで撃ち合いごっこをした。卓球もやった。そこで、二時間ほど過ごしただろうか。実は、今までに小学生の子どもとこんなに遊んだことはなかった。結局、その夜は三人で地下室で寝てしまい、翌日、帰った。

彼らの父親は郵便局に勤めていた。日本の郵便制度について、たくさん尋ねられた。

「日本は、手紙を出すと、何日で着くのか?」

「普通郵便はいくらかかるのか?」

「日本にはなぜ切手というものを貼るのか?」

「郵便配達の車やバイクはなんで赤いのか?」

次から次へと質問が出された。彼の好奇心は、すごいものがあった。隣に座る母親も、頷きながら聞いていた。日本人に会うのは、初めてだったらしい。

郵便の話が一通り済むと、彼はマイケル・ジャクソンの音楽をかけた。その曲を聴きながら、マイケル・ジャクソンの素晴らしさを話す。

「『スリラー』はすごい。」

「コンサートに行った。」

「何枚もアルバムを買った。」

「あとで好きな曲をダビングしてやる。」

と言っては、一時間近く話をしてくれた。ケルシーにしても、彼の父親にしても、一生懸命さというものがものすごく伝わってきた。

母親は、いつも下の子をあやしていた。時々泣いたりすると、抱っこをして、「子守唄」を歌っていた。「子守唄」といっても、英語だから何の歌だかはわからない。そんなとき、母親は、何か思いついたかのように言った。

「ケンジ、今度ベビーシッターしてくれないか?」

突然の彼女からの提案に躊躇していると、

「私たちは、週末用事があって、家をあけることになっちゃうの。土曜だけでも、一日この子を見てくれない?」

と言うのだった。アメリカでは、ベビーシッターというのをよくやっているということは知っていたが、

「まさかこの俺が!」

と思った。

「こんな見ず知らずの男に自分の大事な子を預けるなんて大丈夫なの?」

と、訊きたくなった。アメリカでは、子どもの誘拐が社会問題の一つになっている。司法省の統計によると、その発生件数は十八歳未満の子どもで年間約八十万人といわれている。一日当たりに換算すると約二千二百人にもなる。そんな国で「ベビーシッター」という文化があること自体不思議に思った。しかし、

「せっかく自分を信用してくれているのだから。」

と思い、快く引き受けることにしたのだった。