しばらく仕事を休むことにした。職場には「体調を崩して……」と連絡したが、親しい同僚の木下さんには哲也の逮捕のことを正直に話した。休んでいる間、木下さんに私の担当の仕事を代わってもらわなければならないからだ。

「哲也君がそんなことをするなんて絶対にありえない!」

木下さんはパニックなってしまった。帰りが遅くなった時や天気が悪い日などは、私を車で迎えに来てくれていた哲也の姿を木下さんはよく見ている。「通り道だからどうぞ乗ってくださいよ」と木下さんを家まで送ったことも何度もある。

「私は誰が何と言っても哲也君を信じているからね」

木下さんの言葉が心に沁みた。

町内の人は、皆、何事もなかったように接してくれる。ニュースを見ていないのだろうか。まだ気づいていないのかもしれない。誰とも話さず近所付き合いまで完全にやめて家に引きこもったら病気になってしまいそうだ。哲也を信じてできるだけ普通に暮らそうと思う。

今日は弁護士さんに会える。哲也のことが聞ける。昨日は主人と一緒にスーパーで息子の下着や靴下、セーターなどを購入した。弁護士さんから渡してもらおうと思う。本当は私が直接渡したいが、面会の許可がいつ下りるのかわからない。 

本人は否認しているのに、犯人扱いで実名報道。哲也はまだ31歳だ。彼の人生はこれからどうなってしまうんだろう。仕事は? 結婚は?

被害にあったという子どもさんは、どんな証言をしているのだろう。その子の親にしてみたら、大変な憤りかもしれない。

「女子児童の体を触るなんて…僕がそんなことするわけないじゃないか! 僕が子ども達一人ひとりをどんなに大切にしているか知っているよね? 子供を傷つけ、自分の人生を棒にふるようなこと……僕は絶対にやっていない」

哲也が顔を真っ赤にして怒っていたあの夜のことは、今でもよく覚えている。普段は温厚で冷静な哲也も自分の感情を抑えきれないようだった。

翌日の職員朝礼では、校長が「田中がやった」と発表した。「今日から自宅謹慎だ」と。「田中とは連絡を取らないように」とまで命令した。信じられない対応だ。