そこまで言って僕は目を瞑ったことを覚えている。あふれかえるほどの情報が目の前を行き来している。あまりにも情報が多すぎる世の中で、必要な情報は、本当に必要とする情報は深く秘匿されている。

それはわかる。僕自身が必要以上の情報は必要ないということは理解している。会社の必要とする情報、ということは僕も理解できる。アメリカで、ヨーロッパで、僕の相手になった企業は皆、情報を隠そうとした。

負の情報は会社の生命線を左右する。プラスの情報のみを相手に信じさせようとする。僕はそのうそを見破ることに集中した。そうだ、だけど、あの会社を追われ、日本に戻ってきて入ったあの会社では逆に情報を隠そうとした。負の情報を隠そうとした。

ああそうだ、僕はあの会社を裏切ったのかもしれない。あまりにも情報を隠そうとするあの会社の体質に嫌気が差して、僕は、あの企画を根底から支える技術の情報を気づかれないように盛り込んだ。そして、その情報に気づいたならば、あの企画そのものがあの会社では実現不可能なことを僕は知っていた。

だが、社長も、専務もそのことには気づけなかった。気づいたのは、それぞれが相手の企業から、契約を断られたときだった。

「しかし、あの情報は……」

僕の呟きに紳士は答えた。

「ええ、わかっていますよ。あの情報は彼らには理解できなかった。社長も、専務も表面の素晴らしさに心を奪われていましたから。ですが、私も、私のライバル企業もあの情報には気づきました。だから、断ることができました。

一条寺君、そして私はね、そのことをあなたの会社の社長に教えてあげたのですよ。そして、ライバル企業も専務にそのことを教えたのです。なぜだかわかりますか?」

僕はもうわかっていた。ここに、この目の前に、僕の真実を知っている人がいる。そういう人にめぐり会えたということに僕の心はとらわれていた。

「気づかれたようですね。そう、私も私のライバル会社も君を欲しいと思ったからです。そして、互いに君のことを調査し始めました。しかし私は、君に一度会っていた。君の提案力に直接触れたことで、私の方がライバル企業に一歩先んじていました。今頃彼らは、地団駄を踏んでいるでしょう。私が君と接触をしたことを知っていますから」

【前回の記事を読む】1人の社員がスケープゴートに…会社の上層部がキタナイ手段をとった理由