【前回の記事を読む】同窓会で片思いしていた女性と再会…蘇る高校時代の思い出

『このまま君だけを奪い去りたい』

宴会も終盤に差し掛かり司会の須藤くんが、「そろそろ宴もたけなわとなりましたので、最後にこの方からご挨拶をいただきます。カモ~ン、スーパースター」

「皆さん、お久しぶり~!」

【拍手】

「どうも。改めまして、『オザシゲ』で~す。皆、俺のこと覚えてる?」

「覚えてる。覚えてる。あのドラマに出てたでしょ。なんだっけ? タイトルが出てこない」

「俺主演だったドラマ『隣人の鍵を拾っちゃった』に出演した男沢繁です。皆との想い出は鮮明に覚えてるよ。京都での夜の枕投げ。卒業旅行で行った沖縄。どれも最高の想い出です。あの時の皆がいたから今の俺がいる。いつでも胸に刻んで過ごしてます。今日は皆集まってくれてありがとう! それでは、またの機会まで」

「どうもありがとうございました。今日は大変忙しい中、時間を割いて来てくれた俳優の繁くんに、もう一度盛大な拍手をお願いします」

【拍手】

「以上をもちまして同窓会を終わります。なお、お帰りの際は十分お気をつけください。お酒を飲んだ人はくれぐれも飲酒運転はしないようよろしくお願いいたします。それでは皆さまのますますのご多幸を祈り、閉会の挨拶とさせていただきます。本日は誠にありがとうございました」

一次会が終わり、皆が散り散りに解散する中、俺はスマホを取り出しホテルを予約した後、皆とにぎやかに歩きながら二次会の場所へと向かった。着いた場所は貸し切りができるくらい広いBARだった。残ったのは先生や元生徒会メンバー、野球部の仲間などを合わせ三十人の大所帯となった。 

程なくして、店のチーママがやって来て、

「お客さま。お飲み物はいかがいたしましょうか?」と聞いてきたので、

「まだ決まってないんで決まったら頼みます」と強くんが言った。

チーママがその場を離れると、

「皆、決めた? じゃあ、生ビールの人、手を挙げて。……半数だね。次、ノンアルコールやソフトドリンクの人? ……OK。炭酸? お茶? なんでもいいや。適当に頼んでくるから、好きな曲かけて好きなだけ歌って」

足早にチーママのところへ一杯目の飲み物を頼みに行った。そうこうしているうちに曲が流れてきた。皆たくさん歌った。あいみょんから北島三郎まで。その場はさながら『紅白歌合戦』のような雰囲気になり大いに盛り上がった。

あっという間に楽しい時間が過ぎ、チーママがやって来て、

「そろそろお時間になりますが」と聞いてきたので、

「もう少しでお愛想します」と強くんが答えた。

「では、お飲み物のほうがラストオーダーとなりますので、よろしくお願いします」

「皆、好きなもの頼んでいいよ」と強くんが言ったので、俺はウィスキーの水割りを頼んだ。水割りが来たタイミングで俺がラストに入れたDEENの『このまま君だけを奪い去りたい』が流れてきた。マイクを握り締め熱唱した。曲が終わると皆から拍手喝采を浴び、

「懐かしい~」

「良いよねえ、特にサビの部分が」

「歌い回しに味があったよお」と言われ、思わず赤面した。無論、あの娘も自分のことのように喜んで、笑顔を綻ばせながら「うん、うん」と頷いてくれた。

二次会が終わり皆で外に出た。

「今日は楽しかったねえ」

「しばらくぶりだったけど、そう感じなかった」

「お前さっぱり変わってないなあ」などと店先で盛り上がった。

「さあ、帰る人は気をつけて帰る。この後も行きたい人は、居酒屋を探し飲みに行くもよし。以上。解散!」

俺は参加せずホテルまで歩いた。とにかく懐かしかった。好きだった娘とも再会できたし、全てがスッキリした。きれいな街並みをゆっくりと歩いた。

(便りがないのは良い知らせ)と言うが、便りをもらって正解だった。

ホテルに着きチェックインを済ませた後、部屋に入り上着を脱ぎ、ベッドに横になり眠りに就いた。知らないうちにうとうとと寝てしまい、それから三時間が経ち、一件の着信が入っていることに気づいた。

(見覚えのない番号。いったい誰だろう?)と思いつつも気になり電話を掛けてみた……。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『ライオンと鐘鳴らす魔道師』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。