「どう、瑠衣ちゃん。一口目のフィーリングのほどいかがですか。二口目は、カマンベールチーズケーキを少しだけ口にし、赤ワインを舌で混ぜ込ませながら喉を通してごらん。そうすると、また違った深みのある趣を感じ取れるから、試してみるといいよ。まるで、大人になったような心地よい気持ちに生まれ変わるかもよ」と坂東はいたずらっぽく笑った。

試すかのように坂東は、テーブルの上にあったチーズケーキをケーキフォークで奇麗に切って口にし、自分のグラスにワインを三分の一ほど注いで一気に口の中に流し込み、舌を上下左右と何回ももてあそぶように飲み干した。

そんな坂東を瑠衣は、「ワインってこんな風に飲むのかしら……」と内心疑うような目つきで見ていた。それにしても瑠衣にとって、こんなに気楽に話しかけてくる坂東の姿を見たのは初めてであった。

「さあ瑠衣ちゃん、カマンベールチーズワイン召し上がれ」と、坂東はまるでソムリエのような素振りで促した。

「それでは、先生いただきます」瑠衣は、チーズケーキ少しと残っていたワインを口に入れた。なれないせいか、喉につっかえつっかえやっとの思いで飲み終えた。

そんな様子を眺めていた坂東は、「瑠衣ちゃん。まるで薬を飲んでいるみたいだね」と言いながら、「なんてことないよ。これも大人になるための経験のうちだから……」と、にやけた顔でほほえみかけた。

「坂東は、心の中で、私をせせら笑っているみたい」と瑠衣は感じたが、黙して語らずを決め込んだ。

※本記事は、2021年11月刊行の書籍『一闡提の輩』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。