「レトから生まれる子供は、どの神の子より美と才能に秀でているだろう」と、予言されていました。そのため、ゼウスの浮気でレトが妊娠したことを知った正妻ヘラは激しく嫉妬して「レトに出産する場所を与えてはならない!」との命令を下しました。レトは出産間近まで出産できる場所を求めてさ迷わなくてはならなくなってしまいました。

[写真3]ゼウスの正妻ヘラ
[写真4]シュロの樹の下(レトがアポロンを出産した場所)

苦しむレトを見たゼウスは、エーゲ海を漂っていた浮島のディロス島を海上に引き上げて固定し、出産の場所を作りました。また弟で海の神ポセイドンにも協力を頼みました。ヘラに見つからないように大波をたてて島を覆ったといわれます。この辺りは土地の人がアフリカからの風と呼ぶ強風が吹き荒れることで有名です。今でもしばしばミコノスからディロス島に渡る船が欠航になります。ゼウスとポセイドンの助けを借りてレトは、棕櫚の樹にもたれて太陽神のアポロンと月の女神アルテミスの双子を生みました。

Delos(ディロス)で生まれたApollon(アポロン)とArtemis(アルテミス)

土地の人のお話を紹介しましょう。レトの子より命を奪われるとの予言を受けていたデルフィーの神託所の番人であった大蛇ビュトーンは、レトを地の果てまで追い回しました。また、ヘラの命令を受けた巨人ティテュオスに殺されそうになりましたが、ゼウスの雷電で危機を免れることができました。ティテュオスはこのことが原因で、冥府で二羽の禿鷹に肝臓を突かれ続けるという永遠の罰を受けました。

このようにレトの出産は大きな危険を犯してのものでした。出産の女神エイレイテュイアはヘラの娘です。母ヘラが娘を引き止めたためレトはたいへんな難産に苦しみました。最終的には他の女神たちに説得されたエイレイテュイアは出産に立ち会うことになりましたが、レトの苦難は、9日9晩にも及んだと伝えられています。

聖なる湖

レトが出産に使ったとされる場所が「聖なる湖」です。強い陽射しと強烈な風に迎えられてディロス島遺跡入り口から聖なる道を歩いていくとたどり着きます。神話にちなんで、後に湖の中央に棕櫚の樹が植えられました。現在、湖はマラリア蚊の発生により埋められています。棕櫚の樹のところまで行こうとすると土地の人は凍りついた表情になりました。蛇、それも毒蛇がうじゃうじゃいると言います。

ビュトーンは、アポロンにより殺害されました。その後、デルフィー(Δ)ではこの大蛇に代わってアポロンによる神託がおこなわれるようになったと言われます。有名なアポロン神殿は、予言に依存したギリシア人たちが国の行方を左右することから個人の結婚に至ることまで、ありとあらゆることを予言してもらいに各地から集まってきました。

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『ドレナージュ大全』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。