真理の真剣な思い入れが伝わってきたので、彼は母親の最後の時をさらに詳しく語りたい気分になってしまった。自身でも意外なほど詳しく臨終の様子を語ってしまい、真理のほうはさすがにこの話題から離れようとするだろうと思った。ところが真理の反応は意外なものだった。

「気になさらないでね、でも今のお話を伺ってると、お母さんって亡くなってしまわれる前に何か急いでしてしまいたいと思っておられたようだし、それが叶わないならご自身の意志であの世に赴こうと決心しておられたような……ごめんなさい、何だかお母さんの身になって感じた気持ちになってしまって、お母さんが考えてらしたことを代わりにそのまま語っていくような振る舞いまで……」

「何か生き急いだんじゃないかと僕も思うんだけどね。母親は亡くなる三カ月前ぐらいから頻繁に家の中を徘徊のような感じで歩いてたんだよね。真夜中のことで、僕もたまに起きた時にそのような姿を見た限りで言ってることなんだけど。何か放心したような、全く僕にはわからないことを突き詰めて考えてるような、うまく言えないんだけど、本当に昼日中の印象とは正反対の母親の姿を見てるとね、何と言ったらいいのか……」

「本当にこちらも来栖さんの気持ちになってしまったようで、お母さんが亡くなられたところに居合わせてるような気がします。ごめんなさい、こんなこと、何か嫌な思いをしたから言ったんじゃないんです。そこに本当に居合わせたりしてたら助けてあげなければならないわという気持ちになったものだからそう言ったまでで。誤解しないでね。頑張ってくださいな。私も何かできることがあればさせてもらいますから」

「分かってますよ、悪気なんてないってことは」

心の丈を率直に語り合ったということでは、この時の会話が最初で最後のものだった。勿論このことに気づいたのはずっと後のことである。真理の受け答えには興味津々の好奇心ではなくて、真摯に来栖を励まそうとする心情が溢れていた。

これまでのつき合いで来栖が真理に見てとったと思い込んでいたコケットリーや安っぽい同情心のようなものはそこに見られず、彼は今まで全く気づかなかった真理の心情を見出した気がした。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『ミレニアムの黄昏』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。