【前回の記事を読む】若い男性が失明も…「ベーチェット病」原因解明に努めた医師

新学説を立てる―ベーチェット病はTリンパ球により誘導される病態である

当時、ベーチェット病は膠原病類縁疾患として分類されていたが、自己抗体がほとんど見つからず、IgDが特異的に増加することが特徴的であった。

IgDの病因的意義は今日でも不明である。これら一連の生検データは学会、厚生省班会議で発表したが皆さんその意味が理解できないのか、反応はいまひとつであった。

[写真1]ベーチェット病患者の超々早期の結節性紅斑の組織像。リンパ球浸潤のみで好中球は見られない。発症後約10時間。このあと好中球が猛烈な勢いで局所に浸潤してくる。
[写真2]ベーチェット病発症の仮説。病変局所で活性化されたTリンパ球はサイトカインを分泌し好中球を局所に呼び寄せるとの仮説を立て実証した。

私はリンパ球浸潤の意味を明確にせねばならないと考えた。

局所抗原にさらされたリンパ球が幼若化する過程で好中球を呼び寄せる何らかの分泌物(サイトカイン)を出しているに違いないとの仮説を立てた。同じグループの山本道教先生とオクタルニー法で実験を行った。

その結果、好中球は患者血清の方へ遊走し、正常人血清には向かわなかった。即ち、ベーチェット病の本体は病変局所で活性化されたリンパ球から放出されるサイトカインが好中球を局所に呼び込んで形成される病態であり、本質はリンパ球病、即ち自己免疫疾患であり、好中球の集簇はその結果に過ぎないことを証明した。

私はこれら一連の実績から、将来ベーチェット病は「ベーチェット・ヤマナ病」と呼ばれることを期待している。

自己免疫疾患:本来病原体から身体を守るはずの免疫システムに異常をきたし自分自身の身体を誤って攻撃するようになった状態。多くの疾患を含み膠原病は大部分自己免疫疾患である。(例)関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど

[写真3]好中球は患者血清の方へ遊走している。