【前回の記事を読む】【小説】「へー、そうやってお金持ち狙って詐欺やってたのね」

携帯エアリー

「うーん、要するに、名簿屋はオレオレ詐欺のことは知ってたようですね」

「へーー、それで、名簿屋から何を聞いてきたんだ?」

「兎に角名簿屋は、高収入、高学歴、不動産王、理事長、社長、政治家や絵画の持ち主。田国超富でんごくちょうふなど高級住宅地で富裕層の住所と電話番号をすべてお金で取引することが出来る、個人情報の図書館みたいな店です。そして、そこには本人の趣味嗜好、性格までが書かれている場合もあります。詐欺師が実際にその家の家族にちょっとしたトラブルを起こさせて、在宅中の家族に多額のお金を要求して示談を成立させるケース。色仕掛けでおやじ狩りをしたり、合成写真を見せてマスコミにリークすると脅してお金を払わせるケース。他にもありそうですが、富裕層はスキャンダルを嫌って体裁ばかりを気にするから、そんな低レベルの詐欺でも簡単にお金を払ってしまうんですよ」

「それで、その名簿屋とはいくらで取引するんだ?」

「一件につき二十円。それを一度に何千件も買うって話ですよ」

「しかし、その名簿屋、そんなこと、よく教えてくれたな」

「それは……僕が言っても答えてくれなかったんですが、赤井さんが言えば……」

「はっ?」

「そうか、美人の言うことなら何でも聞くってわけだな」

「違います!」

「いいな、美人に優しくブスには冷たい、優先順位は美人からってタイプの男か」

「ハハハハハッ!」

「違いますよ」

本当は女性が一人いただけだった。それでもうまく切り抜けた。

「ところで、相田はよくそんな情報掴んだな」

「あっ、それは、この前友達と飲んだんですけど、その友達がパーフェクトがあった場所に会社を興して、今そこの社長で、そこから聞き出したんです」

「何だ? お前の友達も怪しいな」

「いいえ。それはないと思いますよ」

省吾はアパートに帰って考えた。

――親に虐待されて家出したり風俗で働いたり、十代でも親からの金は受け取れないのか? 親は四十くらいか? その親が十代の頃は少年犯罪が問題視された時代だろう。自分たちはゆとり世代だが、その少し前は少年犯罪が多発して、それでも少年法に守られていた時代。運よく捕まらなかった少年も、荒れていたと聞いている。その世代の少年少女が今、親になり、生まれて来た子供が育っても、常識も思いやりもなく、その日暮らしの、人の道から外れた人生を送るしかないのだろうか?