点滴くらいは自分で?

これは私が二〇〇五年モルディブ共和国に赴任中のある朝、猛烈な腹痛・下痢・吐き気・めまいに襲われたときの話です。

その日はあいにく休日だったため、その町の一番大きな近代的な病院では医師不在を理由に診察を断られました。なんとか現地の友人に連絡を取り、現地人向けの小病院に連れていってもらい、入院しました。

そこのトップの医師が診察してくれた結果、「ウィルス性大腸炎です。点滴をしましょう」ということになりました。病室に戻って待っていたところ、若いインド系の女性看護師が点滴の器材を持って病室へ入ってきました。そしていざ、左手の甲に点滴を始めようとしたのですが、見ていると彼女の手はぶるぶるとふるえ、しかも私の手の甲で見えている血管と筋との区別ができず、やたらと刺しまくるのです。

びっくりして聞いたところ、彼女は看護師の経験がその日が三日目で、「点滴するのは初めてです」と言うではありませんか。私はこれ以上彼女にまかせて手の筋をおかしくされても大変だと思いました。一瞬逃げ出そうかと思ったのですが、腹痛は早く治したいし、ゴムバンドその他一応の器材はそろっていたので、やむを得ず彼女を助手にして自分で点滴を行いました。

そして無事点滴が終わった頃、腹痛もおさまってきました。ところが、数時間後こんどは副作用の薬疹が出て、それにも困ったのですが、手の甲の表面に見えている血管を何ヵ所も切断されたため、表面が赤く変色したままとなってしまいました。

日本へ帰国後、かかりつけの医師の診察を受けたのですが、「これは治りません」のひとことでした。まあ、それ以外は問題ないので、よし、としました。

教訓

途上国とはいえ、このように医療施設で自分で注射や点滴をしなければならないようなことはほとんどないでしょう。しかし万が一のために日本の病院などで注射や点滴をされる際、手順などをよく観察しておくことは無駄ではないかもしれません。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『アテンション・プリーズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。