三 美味しい食の話

5 季節の味、天然と養殖

青葉の茂みが風にそよぎ、川面にはせせらぎの音。そして魚影が見える。いよいよ鮎の季節だ。

天然の鮎は新鮮な果物のような、言うに言われぬ良い香りがするので「香魚」と呼ばれる。鰭や頭の後ろには綺麗な黄色い追星が入っていて、その姿は美しく、よく日本画にも描き出される。清流と鮎は日本の初夏には欠かせない風物詩だ。

中ほどの大きさの鮎は塩焼きにして「たで酢」で頭からいただくのが美味しい。

養殖の鮎が初めて市場に出た頃は、妙に色が黒く、太く、黄色い追星もなく、脂が不自然にあるのが特徴であった。しかし、餌や養殖場等の技術の進歩により、天然の鮎と見間違うようになってきた。

今はハーブの配合された餌で育った「ハーブ鮎」というものもあるくらいだから、これは日本人の細やかな研究の成果といえよう。

ただひとつ今でも違うところは、同じ新鮮な鮎でも、天然のものは頭から中骨がスーッと抜きやすく、脂がついていないことだ。天然の鮎の味は、厳しい清流の中で、もまれながら餌を探し求め、成長してきたことにあるのだろう。

鮎に限らず、養殖ものの魚は、脂がのっているのが特徴だ。特に海の白身の養殖魚は、総じて同じ味がしてならない。それは似たような環境に育ち、同じような餌を食べている所以なのだろうか。

地球上の人びとの食料をまかなうための養殖は大切なことかもしれないが、季節感が薄れていくのは淋しい。

日本料理は、素材、職人の技、器との取り合わせが芸術作品といっていいほど、調和のとれた美を創り出す。日本人の季節への思いと料理の妙味は、今や世界の人びとに好まれ、海外への出店も年ごとに多くなっている。

それは自然や風土の中で重層的に育まれてきた、日本の誇る料理の伝統に大きな要因があるに違いない。

天然の鮎の解禁日が待ち遠しい。今年も季節の「香魚」と一日も早く巡り合いたいものだ。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。