第1楽章アレグロ・モデラート。明るく流麗で、聴く人の気持ちをわくわくさせてくれる音楽である。美しく、伸びやかな、心弾む旋律(第一主題)が聴く人に生きる希望を与えてくれる。思春期のモーツァルトの瑞々しい感性が光る名曲である。第一ヴァイオリンがこの第一主題を演奏した後に、今度は第1ヴィオラがこの主題を奏でる。弦楽四重奏曲には現れなかった世界である。明るいヴァイオリンに比べ、やや低い音のヴィオラで演奏される主題がなんとも味わい深い。

その後チェロの音も主旋律の音に加わり音楽に幅が出る。第二主題は二つのヴァイオリンが奏でる、優しく愛らしい、モーツァルトらしい旋律である。これも聴く人の心を暖かく包んでくれる。

このように三つの弦楽器がそれぞれの個性を表しながら魅力的な旋律を奏でていく。聴く人の人生に明るい希望をもたらしてくれ、心を安らかにしてくれる、癒しの音楽である。悲しみも悩みも心配も皆吹き飛ばしてくれるようである。弦楽五重奏曲の深遠な世界の魅力を余すところなく伝えてくれる。

第2楽章アダージョは大変素晴らしく私の好きな楽章で、目をつぶって聴いているとその素晴らしさに言葉を失ってしまう。冒頭部はゆったりとした優しさに満ちた旋律で始まる。

この第一主題はまさに癒しの音楽である。ヴァイオリンとヴィオラの掛け合いで音楽が進行する。チェロは終始伴奏にあたる。この第一主題が繰り返し演奏される。伸びやかなヴァイオリンとやや低音のヴィオラの協奏が素晴らしい。後半部に入るとやや悲しみの音楽に変わっていく。しかし悲しみは長くは続かない。そのあと冒頭部の音楽に戻る。単なる冒頭部の繰り返しではなくモーツァルトは微妙な変化をつけている。そのあと冒頭部分の音楽を全楽器が同時に奏でて静かに終了する。弦楽器は終始弱音器をつけて演奏されている。

私の愛聴盤はエーデル弦楽四重奏団に第2ヴィオラのヤーノシュ・フェへールヴァーリが加わった演奏である(CD:ナクソス、8.553103、1993年12月ブダペストで録音、輸入盤)。この音楽には第2ヴィオラの演奏がとても大事であるが、エーデル弦楽四重奏団の四人に加わったフェへールヴァーリも同じように柔らかい、優しい音で深遠なモーツァルトの弦楽五重奏曲の世界の再現に参加してくれている。聴くたびに感動する素晴らしい名演奏である。