【前回の記事を読む】神童・モーツァルトを大きく成長させた「西方への旅」とは

一幕のドイツ歌芝居「バスティアンとバスティエンヌ」 K.50/46b

「バスティアンとバスティエンヌ」の序曲の主題はとても爽やかで、素敵で印象的な旋律であるが、これをベートーヴェンが英雄交響曲の第1楽章の主題に用いた。

すっかり同じである。ベートーヴェンがモーツァルトの曲を詳細に研究していたことは良く知られているが、ベートーヴェンの代表的な英雄交響曲に「バスティアンとバスティエンヌ」の序曲の主題を用いたのは、いかにベートーヴェンがモーツァルトを尊敬していたかを物語っている。

わずか12歳の少年モーツァルトが書いた「バスティアンとバスティエンヌ」の序曲がベートーヴェンの交響曲の代表作の主題になるとは!  ただただ天賦の才能に驚くばかりである。

またこの曲の第10番は特に爽やかで、愛らしくとても好きである。第11番もバスティアンが少年らしい愛らしさでバスティエンヌが美しいと褒める。第12番はバスティエンヌが、

「私のバスティアンは、本当はとっても優しい、いい人なのよ!」

と透き通った声で歌う。この曲も大変好ましい。

「バスティアンとバスティエンヌ」の透明感あふれる爽やかな音楽は、最晩年のドイツ歌芝居の傑作「魔笛K.620」の三人の童子の歌声を彷彿とさせる。

12歳のモーツァルトには、すでに「魔笛」の世界が降りてきていたのであろうか? 大変興味深い作品である。私の愛聴盤はウベ・クリスティアン・ハーラー指揮、ウィーン交響楽団の演奏である。歌手はウィーン少年合唱団の団員(CD:フィリップス、422527-2、1986年2月ウィーンで録音、輸入盤)が務めている。ウィーン少年合唱団の団員の素朴で、爽やかな、透き通った歌声に癒される。

6章 弦楽五重奏曲第1K.174

モーツァルトは弦楽五重奏曲を六曲残している。

第1番K.174は弦楽四重奏曲「ウィーン四重奏曲」の後に、第2番K.515、第3番K.516、第4番K.406/516bは弦楽四重奏曲「ハイドン四重奏曲」の後に、そして第5番K.593、第6番K.614は弦楽四重奏曲「プロシャ王四重奏曲」の後に完成している。

このようにモーツァルトの弦楽五重奏曲は弦楽四重奏曲と密接な関係にある。一般に弦楽五重奏曲は第2ヴィオラあるいは第2チェロを加えることにより演奏されるが、モーツァルトの弦楽五重奏曲は弦楽四重奏に第2ヴィオラを加えた作品のみである。第2ヴィオラを加えることにより、一層音楽的な幅を増すこととなった。

この第1番K.174は1773年の暮れにザルツブルクで完成された。モーツァルト17歳。4楽章からなり、演奏時間は23分に及ぶ。弦楽五重奏曲の中で私が最も好きな曲でよく聴いている。私は第1楽章と第2楽章が殊の外好きである。