【前回の記事を読む】家と言うよりもはや雑木林…荒れ果てた家に侵入した男の目的

成城の家

不動産会社の一行と車椅子の女のグループはその家の前で別れ、別々の車でそれぞれの行き先に向かった。車に乗り込むと助手席に座った若い女に叔父と名乗る男が言った。

「余計な事をべらべらしゃべるな。黙っとけと言ったはずだ」

若い女はふくれっ面をした。「まずいことは何も言ってないわよ」

「どこから何が漏れるか分からないんだ。口を閉じていろ、分かったか?」

彼女は何か言い返したそうな様子だったが黙りこくった。抗議しても無駄と分かったようだった。

招集

これより八か月前の事だ。

二人の女はとある東京の下町のアパートで向き合っていた。若い方の女の名は真世。年上の方は麻衣という。

真世が口火を切って言った。

「それで私たちの仕事は? 金を奪う?」

「金を奪うくらいでは済ませない」

「この世から葬り去る? 殺す?」

麻衣は目をきらりと光らせて言った。「出来たらそうしたいところだけれど、一つだけあんたに忠告しておくわ。人を殺して死体を始末するのはこっちが考えているほど楽ではないわよ」

「ノコギリでバラバラにしてしまえば済むんじゃないの?」

麻衣はあんたは怖い子ねと言ったが、真世はあいつの体ならためらわずノコギリでバラバラにして見せると言い切った。しかし麻衣は「バラバラにして海に沈めてもぽっかりと浮き上がるかも知れない。以前そんな事件があった。切り離した胴体が海面に浮き上がって、たまたま釣りに来た人に発見されそこから被害者の名前が割り出され、結局加害者も捕まった」と言った。

或いは深い山の中に分け入って投げ捨てても何かの拍子に通行人の目に止まらないとは限らない。それはよくよくの、最後の手段とわきまえておくことだ。