こんな夢を見た。

夢というのはいつでもどこかおかしい。話や場面が飛ぶのは当たり前だし、自分の役割もどんどん変わり、演者になったり観客になったりと目まぐるしい。そして、どんなに話や場面が変わっても、夢の中ではおかしいとは思わない。

こんな夢を見た。山道を一人でバイクで走っている。空はどこまでもよく晴れている。右へ左へとくねる道を、いいリズムで駆け抜けていく。いつしかそれはダムの上端のような細い道になり、ふらふらとバランスを取って走っている。

やがて道は森の中の急坂となり、獣道となり、それ以上はバイクでは進めなくなる。しょうがないのでバイクを手拭いのようにたたんでポケットに入れて、枝を掻き分けつつ登り始める。いつしか人数は五人ほどになっている。おそらくよく知っているメンバーだ。温泉を探しているとわかっている。いつの間にかそれをドローンのように上空から見下ろしている。

「あったー!」

と誰かが言う。見ると、少し先に確かに湯気の出た温泉が見える。我先に駆け出し、服を脱いで首まで湯に浸かる。五人で入るとちょっと窮屈だけど、いい湯だ。しんどい思いをした後の温泉はことのほか気持ちがいい。太陽の光を浴びて体が妙に白っぽく見える。

「こちらにもっといい湯がありますよ」

ふいに前掛けをしたおばさんが顔を出して、とびきりの笑顔で言った。崖下の湯船は暗くて深い。なんだか怖い。間違いなく悪いものがいる。だから適当な断りを言って外の湯に入っておいた。

冬空に太陽がうっすら浮かんでいる。みんなひっきりなしにわいわいしゃべっている。しかし、心は晴れない。ゴロンとした大きな岩が心の中にあって、時々ゆっくりと転がる。なんだか大きな、言い知れぬ憂鬱があるのだけれど、顔は談笑している。そんな夢を見た。インフルエンザのせいかな。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『京都夢幻奇譚』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。