また十分経ってから、須藤くんがマイクを取り、元校長である秋田俊介先生の祝電が読み上げられ、先生や参加者の祝儀も披露された。また歓談に入り、ある程度お膳を食べノンアル梅酒を飲み干したその時だった。やんわりと風が吹き抜けたかと思うと、一人の女性が目の前に現れた。

「……久しぶりだね。元気にしてた?」

「なんとか元気に過ごしてるよ」

「そっかあ。ご結婚は?」

「独身だよ。君は?」

「私はバツイチ」

「そっかあ。お子さんは?」

「いるよ。今年の春で小学校六年生」

「名前は?」

「翔太だよ。翔ちゃんって呼んでる。日中はパートで働き、仕事が終わったら預けている児童クラブに迎えに行って、車で十五分くらいのところにアパートを借りて二人で生活してる」

「俺は古民家を買い田舎で暮らしてる。野菜の育て方が大変でさあ。これがまた重労働。野菜たちが繊細でさあ」

「そうなんだ。『野菜たち』って。うふふ。まるで子供のような存在ね」

「まあ、いろいろあってね。でも、こうして無事生きてる」

「良かった。今日ここに来て。君と会えてホントに良かった。ありがとね」

「こちらこそ嬉しかったよ。ありがと」

「二次会は行くの?」

「分かんない。まだ考え中」

「私行くから君も来て」

「うん。分かった」

「じゃあ、また後で」

離れながら笑みを浮かべたまま手を振り続けた。彼女の名は大黒美貴。愛くるしい笑顔は今でも健在だ。俺が高校二年の時、セミロングがとても似合う娘で、当時俺は彼女に片想いをしていた。だが彼女は別の同級生と付き合っていた。今でも鮮明に覚えている。その男と二人で手を繋ぎ下校していた時のことを……。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『ライオンと鐘鳴らす魔道師』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。