【前回の記事を読む】日常から縁遠い言葉ではない?「逆縁」の3つの用法とは

曖昧文化

日米文化の違いの一側面を曖昧文化と明確文化として表現できるかもしれない。また日本人はなかなか結論を言わず、はっきりものを言わないが、米国人はまず結論を言って、その理由をはっきり言うというようなことも聞いたことがあるかもしれない。

しかしながら、それは何も日本人が劣っていて米国人が優れているということではない。優劣ではなく、文化の違いに過ぎないのである。国際化や多文化共生の本質は多様な価値観をお互いに認め合って一緒に生きる社会になることだと言うから、これらの視点からも文化の違いは優劣ではないことは明らかであろう。

このような文化の違いは、例えば商用文の書き方にも表れている。日本の商用文では「拝啓」で始めて「陽春の候、貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます」などと挨拶をした後で、「さて…」とおもむろに用件に入る。日本文化ではビジネスといえどもいきなり用件に入るのは「はしたない」と考える。

米国の商用文では拝啓に当たる「Ladies and Gentlemen」などで始めて、挨拶文は書かずにいきなり用件を切り出す。ただし、いきなり用件に入るが、必ずしも結論から始めるとは限らない。「英語では結論から始める」というのは馬鹿の一つ覚えであって、英語でも相手にとって悪い情報などは結論を最後に持ってくるのが普通である。

そして日本語では用件(本文)が終わると「敬具」などで結ぶ。米語では「Sincerely yours,」などと結ぶ。拝啓は「謹んで書かせていただきます」という意味であり、敬具は「謹んで書かせていただきました」という意味である。

米語では会社など団体宛のLadies and Gentlemen「紳士淑女諸氏」という呼びかけで始めて、Sincerely yours「(当社は)誠実に貴社のもの(であります)」という言葉で結び、用件で述べたことの真実性を示している。要するに用件をおもむろに出す文化と用件をいきなり出す文化の違いであって、ここでも優劣ではないことが分かるだろう。