「長野って思った以上に田舎でさ。退屈で退屈でしかたなかったの。それに旦那が遺産をたっぷり残してくれたから、そのお金で渋谷にマンション買っちゃった。今年の初めに東京へ帰ってきたの。そうしたら、この前日本橋のデパートで光彦とばったり出くわして。話をしていたら久しぶりにあっちゃんにも会いたくなったの。何か喧嘩別れしたままで終わるのも嫌じゃない」

「私だってそうだよ。携帯電話もつながらないし、引越し先も知らせてくれなかったから連絡の取りようもなかったんだもの。もともと誤解だったんだから、もう一度会いたいとずっと思っていたわ。でも変ね。光彦さんはあかねに会ったことなんて一言も言っていなかった」

「あら、そう? きっと変な誤解を与えたくなかったからじゃないの」

「そうなのかな? それで、今は何をしているの?」

「今は一人で悠々自適の生活よ。あっちゃんはどうなの? お子さんはまだって聞いたけど。光彦とはうまくいっているんでしょ?」

「結婚して3年にもなれば新婚時代とは違うよ。それなりにいろいろとあるわ」

「そうなんだ。もう3年も経ったのね。困ったことがあったらいつでも言って、相談に乗るから。あっ、そろそろ行かなくちゃいけない。今日はあたしがおごるから。じゃあね」

あかねはグラスに半分残っていたレモンスカッシュを、ストローで一気に飲み干すと、レシートを持って急ぎ足で出口に向かった。昔とまったく変わらないあかねの性格に苦笑いしながら、淳美はバッグを手に立ち上がった。この再会をきっかけに、二人が元の関係に戻るのにそれほど時間はかからなかった。