「どうだい、救急機関員の仕事は」

赤信号で停止したタイミングで、菅平が水上に尋ねた。今は一般走行なので、普通の車と同じように信号を守って走行している。

「……隊員で乗っていた時より、はるかに視野が広がったと思います。確か、隊長も機関員の経験があるんでしたよね」

「ああ。救急車の機関員は、すごくやりがいがある仕事だ。ただ運転するだけじゃだめなんだ。傷病者の症状に応じて、急ぐ場面や、安静を優先させる場面、その時々に応じた走行が必要になる。私はよく上司に、『消防総監を乗せているつもりで運転しろ』と言われたものだ。ブレーキのかけ方一つでも『ブレーキをかけた』って気づかれないくらいの運転をしろって」

舞子は後部座席で菅平と水上の会話を聴きながら、運転席の背もたれの後ろに置かれている水上の地図を見た。救急車が通れる道は黄色に、道幅が狭く通れない道は赤に塗られている。救急病院には青い丸印がついていて、搬入口に矢印が書かれている。

最近、水上は深夜の仮眠時間を惜しんで自分の地図作りをしていた。そんな同僚を舞子は頼もしく思い始めていた。菅平も、水上を一人前の機関員に育てようとしている様子で、病院からの帰り道には、よく緊急走行時の経験談を話していた。

「……普段、救急隊は単隊活動が多いけど、火災現場なんかは注意しなくてはいけないよね。あんまり現場に突っ込んでしまうと、あとから来たポンプ車やはしご車に挟まれて、現場を出られなくなってしまう。救急隊には、傷病者の搬送という任務があるからね」

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『東京スターオブライフ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。