ソフィア王妃芸術センター

昼食のあとに向かったのは「ソフィア王妃芸術センター」だ。この旅で一番見たいものに、いよいよ出会うことができると気持ちが高ぶった。芸術センターは前日バルセロナから新幹線で到着した「アトーチャ駅」のすぐ近くにあり、プラド美術館とは反対の方角にある。昨日と同じ地下鉄3号ラインと1号ラインを乗り継いでアトーチャ駅に到着した。

生憎、天気は雨まじりで寒くなっていた。芸術センター入口の案内版を見ると、館内はたくさんの展示室に分かれており「ゲルニカ」の展示室は随分奥にある。それにレイアウトも複雑でその場所に行き着くのはひと苦労だった。館内の到る所に女性職員が立っているが、彼女らは案内役でもあり監視役でもある。もう近いのかなと思いながらひとりの女性職員に聞いてみた。

「Donde esta Guernica?(ゲルニカはどこにありますか?)」と。するとその女性は「Esta direccion.(この方向です)」と方向を指さして応えてくれた。短いが正しい(いや何とか通じる最低限のというのが正しい)スペイン語会話を交わすことができた瞬間だった。

ゆっくりと絵を見ているので、ゆりと娘の歩く速度は、遅い。その女性職員の前を通り、もう一度ゆり達のいる展示室に戻ろうとしたら、「あっちのほうよ!」と方向を示してくれた。きっと「このおじさん通じなかったんだ」と思われたのであろう。

私はゆりと娘を指さしてにっこり笑顔で返した。その女性職員も私の言いたいことの意味が理解できたらしく笑顔だった。このときは互いに言葉ではなく、ボディーアクション。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『一族の背負った運命【文庫改訂版】』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。