彼女は一気にいくつも年を取ったような、疲れて歪んだ表情を見せて、こちらを見たまま固まっていた。その姿は、これから裁きを受ける罪びとのようにも、死を宣告される重い病の人のようにも見えた。

私は裁く人間でも宣告する人間でもない。だから、こう尋ねた。

〈自分のことをなぜいけない子だと言うんですか〉

そうして彼女の答えを待たずに続けた。

〈あなたは自分の居場所を作るために、精一杯のことをしているだけですよね。あいにくお母さんも、付き合っている人もあなたを幸せな気分にしてくれないけれど。安心したいと思うことはいけないことでも何でもない、安心できる場所が欲しいと思って手を尽くすことが、悪いことであるはずがない〉

元彼、というくらいだから気持ちは離れているとは思っていたが、それでもそこそこ仲の良い避難所なのだと考えていた。しかしそれにはセックスが伴い、彼がそれを求めるだけでなく彼女もそれを求めていて、家にいられないからというだけではなく、自分から元彼のもとに通う節がある。しかもそれに彼女が罪悪感を覚えているという。

彼氏でもないのにセックスだけしに行くからふしだらだと言うのだろうか。そんな単純な気持であるようには思われない。家に居場所がなく元彼のところに行くのは間違いないだろう。だがそこには肉体の罠があり、それは、たとえ一時にせよ、自分を苛む孤独や不安、それらを忘れる時間を提供してくれるのだ。

セックスを目的に、彼女は元彼のところに行っているのではない。誰からも受け入れられないという自分のむなしさを紛らわせるために通うのだ。だがそれは、いくら通ったところで孤独や不安を消し去るものではない。むなしさを埋めるものではない。

この人は、おそらくそれをわかっている。いくらセックスしても苦しさは収まらないのに、それを求めてしまう。望んでもいないセックスを求めざるを得ない。

他に何ができるだろう。その絶望が、この人を追い詰めているのではないか。自分がいけない子だから、と言うしかないではないか。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『毒親の彼方に』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。