大腸菌の入れ替え?

次の事件は私が初めて海外の建設工事に赴任した際に経験したことです。私は一九七九年八月八日に初めての海外工事に赴任しました。それは、UAE(アラブ首長国連邦)の七つの国のうちの一つであるラス・アル・ハイマー(RAK)に計画されたセメント工場の建設工事でした。

その工場は海(ホルムズ海峡)に程近い、高さ二百メートルほどの石灰岩の山のふもとにありました。八月ということもあって、日中の最高気温は連日四十五度を超え、かつ湿度は日中でも六十パーセント以上で非常に蒸し暑い日々が続いていました。

その過酷とも言える気候のためか、原因は不明ですが、現地の業務に就いて約一週間あと、朝食後約二時間経った頃、かなりきつい下痢、腹痛と吐き気に襲われました。工事事務所の上司は私の様子を見て「大腸菌の入れ換えだな」と言い、そして何を飲んでも体が受け付けない状況の中、とにかく水(ミネラルウォーター)を飲み続けるようにと言われました。

そのアドバイスを実行して半日過ぎた頃、ようやく腹痛が軽くなるとともにその他の症状も軽減してきました。そして翌日には体のだるさは残っているものの腹痛などは消え、翌々日には通常業務へ復帰できました。

教訓

このような症状は、「旅行者下痢」と言われています。発展途上国での感染が多いようで、毎年海外旅行者の半数近くが旅行の第一週目くらいに突然発症しているようです。

私も複数のフライトで移動中の機内で「お客様の中にお医者さんはいませんか」という機内放送を耳にしました。そしてその病人旅行者の症状は腹痛(=旅行者下痢)がほとんどでした。

この旅行者下痢の主な原因は感染性病原菌で、最も多いのは大腸菌の一種であることが明らかになっています。しかし、専門の疾病予防管理センターではこの旅行者下痢は自然治癒傾向が強いため、予防のための抗菌薬の使用は勧めていません。そして以下のことを推奨しています。

・常に石鹸による手洗い、特に食事の前には念入りに洗うこと。

・非衛生と思える場所での飲食は避けること。

・生ものは絶対に食べないこと、これには生野菜も含みます。

・飲料水は必ず未開封のペットボトル(ミネラルウォーター)とすること。

このような日常の予防策で感染リスクをかなり下げられることが明らかになっています。しかし重篤な症状が見られる場合には早急に医師の診断を受けることが必要です。この旅行者下痢は「大腸菌の入れ換え」とは言えないかもしれませんが、原因が大腸菌の一種であることからあながち違うとは言えないと思います。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『アテンション・プリーズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。