この場合のカクテルパーティーでの状況に関しては次のことがいわれています。「多様な音が混じり合って聞こえてくる騒々しいパーティー会場の中で自分の名前を呼ぶ者がいると、その声は他の音よりも明瞭に聞こえてきます。聞こえてくる情報が周囲の声や雑音よりやや小さくても記憶や受動的注意の働きによって自分に重要な情報に対して能動的注意を向けることが可能になります※1」。

私はこの中で、他の音よりも明瞭に聞こえてくるということに関しては、感覚情報保存でいったん保持された音声が、タイムラグのあとで聞こえてくる際に明瞭に聞こえるということと考えています(タイムラグといっても、MMNの直後ということですと、ほんの100―200ミリ秒後程度と思われます)。

また自分の名前だけではなく、近くの人の話し声の内容に関しても、気になる話題(フレーズやワードなど)が聞こえてくることがあるように思います。

このときも、誰かと会話している最中であれば、はじめの一語から注意を向けて聞いているわけではないので、リアルタイムに聞こえるというわけではなく、ある程度意味をもつ内容として発話されてから、それに急に注意が向いて聞こえるということになるのではないかと思いますが、その場合も同様の機序で、注意転換後のタイムラグのあとに聞こえてくるということではないかと思われ、感覚情報保存が関与していると考えています(この場合もその気になったフレーズが何となく他の音声よりもはっきりと聞こえるような印象をもっています)。

MMNは、進化の過程において、敵が近づいてくる音(通常とは異なる音)に対してすばやく注意を向けるという機能に関係していると考えられているようです。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『「意識」と「認識」の過程』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。