野菜もやがて芽吹き暖かくなってきたある日、一通の手紙が届いた。高校の同窓会の知らせだった。どこで俺の住所を突き止めたのか。迷ったが久しぶりに顔を見せようと行くことに決めた。皆と会うのは成人式以来だ。

荷物を揃え、家の鍵を正三さんに預け、新幹線で約二時間、母校の近くにある町場の宴会場に着いた。

「ひさしぶり~」

「元気にしてた?」

「ご結婚は? お子さんは?」と受付前の会話をくぐり抜け、俺は参加費の支払いを済ませ後部の座席に座った。

程なくして同窓会が始まり、司会の須藤武彦くんが、「マイク入ってる? え~。皆さん。今日はお忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます。始めに我が恩師である佐藤好信先生よりご挨拶をいただきたいと思います。佐藤先生、よろしくお願いします」

拍手で迎えられ、

「え~、皆さんお晩です」

「お晩で~す」

「今日はお忙しい中、集まっていただき誠にありがとうございます。桜が満開を迎え、春の訪れを感じる今日この頃ですが、いかがお過ごしですか? 先生もあと五年で定年退職を迎え、再雇用で働くか妻と相談している状況です。今は妻と二人で暮らしており、孫は二人。上の孫は来月幼稚園へ、下の孫はまだ生まれたばかりです。皆さんは結婚して子供がいますか?」

(ざわざわ……)

「まばらですね。いろいろと事情がありますから。皆さんより長く生きているぶん私から言うのもなんですが、いろいろと困難な壁が立ちはだかることかと思います。その時は皆さんで声を掛け合ってください。もちろん、先生に頼ってきていただいても構いませんので、その時はいつでも連絡をください。結びに、皆さんのご健勝とご多幸を祈念申し上げ、簡単ではございますが先生からのお話を終わります。本日はどうもありがとうございました」

「佐藤先生ありがとうございました。続きまして、今日この場を設けてくれた幹事長よりご挨拶をいただきます。神城強くん、よろしくお願いします」

「え~っと。まずお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。久しぶりの人もいらっしゃいますね。おのおの事情があるかと思います。今回同窓会を行うきっかけとなったのは三年前の春。近所に住んでいた藤崎正忠くんが自殺しました。三十五歳の若さでした。

死因は『うつ病』でした。どんな症状だったかは詳しくは知らされていません。しかし、彼の早過ぎる『死』を受け止めることができず頭が混乱しました。そして強いショックも受けました。あれだけ小さい頃から元気に走り回っていた正忠くんがこんな形で亡くなるなんて……。

でも、いつまでも下を向いていてもと思い、今日この場を設けました。当時の正忠くんの思い出話でもしながら楽しい酒宴となりますよう盛り上げていきたいと思います。最後に一言。『皆、生きていけよ!』ありがとうございました」

「強くんありがとうございました。皆さんもお体を大事にしてください。続きまして乾杯に移らせていただきます。乾杯の音頭は女子生徒会長だった進藤厚子さんにお願いします。厚子さんよろしくお願いします」

「どうもお晩です。厚子です。今は榊原から姓を変え進藤になっています。皆さん元気にしてましたか? 結婚してる人。独身の人。それぞれ違う人生を歩んでいらっしゃるかと思います。幸せな人。辛い人もいます。今後躓きそうな時がきたらご一報をください。心が折れそうになった時、こうして支えてくれる仲間がいることを忘れないでください。結びに、穏やかな人生を歩んでくれることをお祈り申し上げ、声高らかに乾杯しましょう。乾杯!」

「かんぱ~い」

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『ライオンと鐘鳴らす魔道師』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。