カシャ。軽い金属音が部屋に響く。台の上の人物の拘束具が解かれた音だった。人影が、台からむっくりと起き上がる。部屋を見渡し、恭子と視線が合った。細面ほそおもて)の顔にポマードで固めた髪。ぎょろりとした目が威圧的だった。男は台から降りた。背が高い。

男はゆっくりと近づいてきた。

「ほう……このお嬢ちゃんかい? 俺を殺すのは」

ニヤリと口角が歪む。

「お嬢ちゃんは動けない。お前を此処で殺して逃げる事も出来るんだぜ」

男は恵比寿顔の方を見て言った。

「お前はこの部屋を出る方法を知らない。逃げるのは無理だ。無駄口を叩いていないで彼女に触れてみろ。刑を執行する」

男は恭子の方を見た。

「……この子に触れる?」

男は無造作に恭子へ近づいて来た。恭子は怯えた。動悸が激しくなる。男はそのまま恭子に近づき、肩に手をポン、と置いた。

「何も起きないぜ?」

「手に触れろ」

恵比寿顔が命じる。男は肩から手を滑らし、恭子の素手に触れた。恭子の身体に悪寒が走る。

「あう!」

男は手を離し、身体を仰け反らした。

「何だ? こいつの手は。無茶苦茶気持ちいいぞ?」

男は、スカートから覗く恭子の膝に触れた。恭子は息を呑む。

「やっぱ、手だなあ。気持ちいいのは手だけだ」

男は恵比寿顔の方を向いた。

「これって、死刑執行中なんだよな」

「そうだ」

「へえ、おもしれえ。こんなもんで死ぬんなら、殺して貰おうじゃねえか」

そう言うと、男は恭子の手袋を外して手を握ってきた。途端に呻き声を上げて仰け反る。握りしめた手から、光が漏れ始める。 屈強な男が、我を忘れて快楽に身を悶えさせる姿に、恭子は嫌悪感を覚えた。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『スキル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。