元彼との関係

元彼との関係は、さらに絶望をはらんでいるように聞こえた。

「家に帰りたくないとき、帰れないとき、お金もないとき、図書館にもいつまでもいられないし、元彼のところに帰ります」

〈帰る?〉

小さくうなずいて、「そこしか帰るところがないから」と呟いた。

そして、「わたしそこしか行くところがないんですから」と付け加えた。

「彼のところに行ってご飯作ってあげたり、一緒に音楽聞いたり、仲の良いカップルのように過ごすんです。おままごとです。わたし小さい頃おままごとなんかしたことがないから、初めはなんだか楽しくて」

ちょっと薄ら笑いを浮かべた彼女は、あたしって変ですよね、と呟いた。

「母の前で明るくふるまうのに比べれば、なんてことはない。幸せとかではないですけど、なんていうか仕事とも違うけれど、そういう風にふるまうことが決まっているというか、そういう役割を演じる、かしら。付き合っている人って、みんなそんな風にして過ごすんだろうなあという過ごし方をします」

何気ない口調で、ごく普通のことを話しているように話していた彼女の顔が、突然暗転した。笑っているのか泣いているのかわからないような歪んだ表情を浮かべ、少ししわがれた声になって話を続けた。

「わたし、いけない子なんです。ほんとは彼のことは好きでも何でもないのにそんな真似をして。家にいるのが嫌だからって、好きでもないのに男と寝るんですよ。ほとんど雌ですよね」

私は珍しく答えに窮した。何か言わないといけないという気持ちと、何も言えないという気持ちが拮抗していた。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『毒親の彼方に』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。