性同一性障害の原因はいまだに不明である。今まで性同一性障害は三万人に一人と言われてきたが、七千人に一人ではないかとも言われるようになってきている。診断には二名以上の精神科医の診断が必要となっている。さらに精神科医の確定診断後、心の性別に体を合わせるための治療を開始する。

カウンセリング後に行うのがホルモン治療である。ホルモン治療は筋肉注射や内服により定期的に投与を行う必要がある。最低一年間、ホルモン治療をした後にようやく手術を受けることができる。

そして今回、僕が受けた手術は子宮卵巣摘出術と乳腺摘出術であった。それはいわゆるステージⅠの手術である。性別の変更はステージⅠの手術を行い、さらにさまざまな条件をクリアすれば可能だ。僕は、ステージⅠの手術のみを希望した。なぜならこの手術にはキリがないからだ。

手術はステージⅢまである。ステージⅢまで手術をすれば本物に近いペニスを手にすることができるのだ。ステージⅢまで手術をした後に、インプラントを挿入すれば性行為だって可能になる。僕たちにとって、それは夢のような話だった。

今回僕が受けた手術の費用は百五十万円程度である。ステージⅡ、ステージⅢの手術もそれぞれ百五十から二百万円程度で受けられる。当然、手術はすればするほどにリスクや合併症はとんでもなく大きくなる。

僕にはFTMの光という友人がいた。光は国内で乳腺摘出術を行い、何年もホルモン治療をしていた。見た目のみの変化を望んでいるならそれだけで十分である。しかし、子宮卵巣の摘出を行わない体に男性ホルモンを投与することは大変だと僕は思う。

光の感情の変動は激しかった。僕も手術前の感情のコントロールには相当悩ませられた。それでも光はその道を望んだ。トイレも男子トイレを使用しているようだ。公共の場で光は性別に関する質問をされても苦痛ではないらしい。

光は戸籍変更や子宮卵巣摘出術に関して、前向きな姿勢ではなかった。光は見た目の変化のみで満足をしていた。それ以上のことは大金を払ってまでの価値はないと言って光は笑っていた。それが光の価値観だった。治療をどこまで行うのか、それはもう本人の価値観で決まる。