また田中は逃げようとした。今度は紀香が言い出した。

「声出してお話しましょうよ」

「うるせー‼」

「ああっ、やっと声出してくださいましたね」

「あっちいけ‼」

そして逃げ回る田中を二人で必死で説得して、何とか話が聞けた。

「パーフェクトは、ペン習字タダで教えてくれるって、おふくろが言うから、それで行ってみたんだ。そしたら、仕事もくれて、給料も良かったから、ずっと働かせてもらえるように、社長に言ってみたんだ。社長は『いいよ』って言ったんだ。そしたら、そのあと、会社がなくなって、社長は外国へ行ったって言うからびっくりして……」

省吾が尋ねた。

「社長は塾長もやっていたんですね」

「うん」

「それで、その手袋は今どこにあるかわかりますか?」

「知らん」

「社長さんはどんな人でしたか?」

「四十くらいの人で、背が高くて、東北弁で、あとは」

「顔の特徴は?」

「色が黒くて目が大きくて、面長で」

「何か社長からもらったものはないですか?」

「うーーん、お金くらいだよ」

「あの、その時にもらったお金と封筒ありますか?」

「出すわけないだろ? 取られるからダメだ!」

「刑事ですよ。そんなことはしません」

「やだ! 絶対渡さない‼」