【前回の記事を読む】【小説】表面上の青春にいそしむ女子高生。その心の内は…

明日の私と私の明日

少し前のクラス替えの後、学級対抗のバレーボール試合の為の、男女混合練習があった。

全クラスを混ぜた合同練習で、隣のクラスの村上君が同じ練習チームだと聞いて、佳奈はトイレで何度も前髪を直した。

村上君とは殆ど話した事がないけど、それでも密かにファンクラブがあると言われるほどモテる顔で、よくある一目惚れだった。

背が高く、勉強、スポーツの文武両道がイケてる男子なら、いつの時代だってモテるだろう。

練習が始まり、佳奈と同じクラスの朋子が頻繁にミスをした。背が小さくて、やった事がないバレーボールでルールも知らないなら、仕方ないかと思っていた。

「おいお前、やる気あんのかよ⁈」

突然村上君が右腕と腰の間にボールを挟んで、朋子に歩み寄る。

「できないなら誰かと代わるか、できるように練習しろよ!」

自分はバレー部だからって、ルールを知らない人にそれはないんじゃない?という気持ちと、何でもいいから村上君と話してみたい、ちょっとでも自分を覚えてもらいたい、という真逆の心理が佳奈の背中を押した。

「ちょっと酷くない? 朋子はバレーをやった事ないんだし、それに身長だって……」

佳奈がそこまで言いかけて、

「誰だよお前。ウザいんだけど、マジで」

皆んながコートの真ん中に集まっている中、村上君の言葉のナイフは次に佳奈へ向いた。

「お前もできてねーよ!」

と言って、ボールを佳奈の足元の床に叩きつけて何処かへ行ってしまった。

跳ね上がったボールが、佳奈の額にパシッと当たり、体育館にボールが、バン、バンと床を打ちつけながら転がっていく音が響く。

村上君を追い掛ける男子生徒と、佳奈と朋子に声を掛ける女子生徒に分かれて、バレーの練習が一旦中止になった。

クシャクシャになった前髪を直す気力はなくて、大丈夫と言って佳奈はトイレに逃げた。

佳奈の中の文武両道に、人間性の善し悪しは入ってなかった。

その日から、佳奈は全てがどうでもよくなっていった。

初恋の相手に玉砕した恥ずかしさと、その恋の壊れ方が、佳奈の色んな物から熱を奪ってしまった。

人前で恥をかかされた屈辱、好意を持っていた人からの罵倒……。

最悪な失恋の仕方と、自分の見る目の無さが、佳奈を追い込む。

こんな思いをするなら、もう人となんか関わらなければいいんだと本気で思った。

何となく日々を過ごしてそのうち卒業したら、誰も自分を知らない所へさっさと行こうと決めた。