第二章 奔走

【8】

その日は深夜に突発的な関連取材が発生する可能性があるため、宮神は編集部に泊まることにした。少しでも体を休めようと簡易ベッドで横になってみるものの、どうも気持ちが落ち着かない。スクープをものにした達成感よりも、東野の行く末が気がかりだった。

二月下旬の金曜日、青柳の予想どおり、快清食品が解散を発表した。宮神はコメントを取るために東野冷蔵へ向かった。

「また記者がぎょうさん来るから、喫茶店に行こか。少し遠いけど行きつけがあるんや」
「喫茶店だとほかの客に話を聞かれませんか」
「心配いらん。いつもガラガラの店やから」

東野の車で移動し、喫茶店からほど近い場所に駐車した。「ここや」と言われた喫茶店は、外壁がいっぱいの蔦で覆われていた。

「快清食品、解散ですね」
「そらそうやろ、としか思わんなあ。快清食品以外の企業で偽装が発覚したときの方が驚いたわ」

そう話す東野の顔は、初めて会ったときに比べやつれが目立つ。内部告発によって人生が激変したのだから、ストレスがあるのは当然か。

「だいぶお疲れですね」
「そうか? そうでもないけどな」
「顔が疲れてますよ」
「ただの歳やろ」
「取引先の様子はどうですか」
「食肉業界に喧嘩を吹っ掛けたと思われているんやろな。潮が引くようにサーッといなくなった。もう、サーッとな」
「そんな状況で、これからやっていけますか」

ある意味では宮神自身が東野を追い込んだにもかかわらず、どうしても言葉が詰問調になるのは、事件後の東野があまりに飄々としているからだ。

「捨てる神あれば拾う神ありや。宮神さん、この前うちが窮地に立たされているって記事にしてくれたやろ。じつは昨日な、あれを読んだ青果専門の業者さんから連絡があって、全面的に野菜の保管をお任せしたいって言われたんや」
「本当ですか!」

宮神は思わず大声を出していた。

「ほんまや。正義感を貫いた人を支援したいって言ってくれてな。実際はワシの会社も厳しい状況やから、そらうれしかったな」
「その会社、取材できますかね?」
「大丈夫やろ。いつでも紹介するわ」

東野冷蔵の廃業を危ぶんでいた宮神は、吉報を聞いて久々に心が晴れやかになった。

※本記事は、2019年10月刊行の書籍『AMBITION 2050』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。