無給医局員

現在、世をにぎわせている無給医師、即ち、医師として働いているのに大学からは給与が支払われない医師のことである。

これは医師養成の仕組みから来ており、我が国の医療制度が始まった時から存在している。私共古い世代は先輩から教えてもらわねば医療技術は身につかないのだから、一定期間は必要悪として仕方なしという考え方であった。

私は1965年に医師として国家認定を受けた。1970年に渡豪するまで5年間は大学病院で昼夜を問わず仕事をして来たが大学から一切の金銭はいただいていない。

その代わり大学は週2日間外の病院でアルバイトをすることを認めてくれ、斡旋してくれた。それで豊かではないが生活はできた。このシステムの最大の利点は大学が医師を市中だけでなく遠隔の山間島嶼部にまで派遣し得たという事である。

私共の世代はこの無給医局員制度を受け入れてきたのである。今の若い者のいうように給与を払うとなると医師養成のシステムと医師配分という供給網が根底からゆらぐことになる。

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『心の赴くままに生きる 自由人として志高く生きた医師の奇跡の記録』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。