【前回の記事を読む】遂にたどり着いた殺人犯、抵抗の末に発した衝撃の一言とは

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事件はまだ解決していない。省吾と紀香はその日、塾があった場所に行ってみた。しかし、その場所は全く違う会社の事務所になっていた。

「事務所の人に聞いてみたらどうかしらね?」

「無理だろ? 誰も知らないよ」

そこへ、事務所の中から長身の若い女性事務員が出てきた。

「あの、何かご用ですか?」

「いえ、警察の者ですが、ここの場所が前には塾になっていたと聞いて、そのことでお話を少しでもお聞きしたいと思ったんですが、誰も知りませんよね」

「塾のことなら、社長がここを借りる時に、話をしてるかもしれないので、ちょっと聞いてみますね」

「すみません。お願いします」

そして、その社長を見て、省吾はドキッとした。

「おい、何だよ! お前が社長か!」

「そうだよ。最近立ち上げた会社なんだ! お前、今刑事か?」

「ああ」

「お知り合い?」と紀香が言った。

「そう。大学の同級生で、若宮公平!」

「よろしく!」

「私は、警視庁で相田さんにお世話になっている、赤井紀香です。よろしくお願いします」

「早速だけど、前ここにあった塾のこと、教えてほしいんだ」

「それは、そこの塾長にあったことないからわかんないけどな、ここに通ってたブラジル人や職に困ったニートが今の会社へ来て、『どこへ移ったんですか?』って言うんだけど、みんなわけありの人たちばっかりみたいで、金が欲しかったようだよ」

「その人たちの住所とか、顔写真とか何かないか?」

「そう言えば、ここで働いている事務員が一人知り合いがいるって言ってたよ。今呼んでくるよ」

そして、小柄な事務員が出てきた。ネームプレートには「高木」と書いてあった。

「あの、知り合いってほどではないんですが、私、この近くに住んでいて、その人もここに近いんです。学年は違いますが、小中学校が一緒で、それでも登校拒否で学校へはほとんど来てなかったようです。それで、近所の人の話によると、彼は一般常識を身につけなくては就職が難しいということで、塾に通っていたそうですよ。でも、塾生は塾代がタダでもやりたくもない仕事をさせられるからって、辞めたがるケースが多かったようです。それでも彼は生活のためにここで学びながら働いていたようですよ」

「その人の家を教えていただいていいですか?」

「はい。アパートですが……田中さんです」

高木は地図を書いて説明した。――そのニート田中は、もしや、殺人の手伝いをさせられていたのだろうか?