担任の女教師は、自分の担当科目の現代国語の授業中、「はい、ここ坂本読んでみて」と何度も指名した。それも授業を聞いていないときに限ってだ。意識すればするほど、語尾がひっくり返って、声が高くなる。いきなり当てられるとアガるのだ。これは母さん以外の人と、あまり接してこなかったためだろう。しどろもどろになると、あざ笑うように言う。

「中学で習ったレベルだよ。なんで読めないの?」

ほとんどいじめだな、この学校は担任からしていじめをするんだな。日を追うごとに俺の心は、学校に回れ右してどんどん暗くなった。俺が高校に通えているのは、母さんが一日中足を棒にして歩き、一般のお宅に飛び込みで営業して、一軒一軒頭を下げてガス器具を売り歩いてくれるおかげだ。だから、明日こそ明日こそと思い、いいことを探しに学校へ行くんだ。

(そうだ、部活に入れば楽しくなるかもしれない)

二週間目で気がついて、職員室の壁に貼り出された部活の紹介を見にいった。俺の学校には、文化系、体育会系合わせて二十近くの部活動があった。でも、待てよ、スポーツはダメだな。はっきりいって俺は鈍くさい。文化系美術は得意とはいえない。DIYにも、あまり興味が湧かない。文芸、演劇、放送、とんでもないって感じ。

生まれてから十五年、なにかを一生懸命やったり成し遂げたりした経験がないことに、ふと気がついた。なんか必死にやるのってダサいじゃん。というわけで、部活にも入らず、授業に出てもなるべく気配を消して、かといって寝ているわけでもなく、ひたすらおとなしくして、四月は過ぎていった。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『泥の中で咲け』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。