【前回の記事を読む】転校生に「都会風吹かしとる」男子のからかいでクラスが分裂…

男子たち

「僕がどうしたって?」

リュウトがヒョイッと話に入ってきた。

「リュウト君のじいちゃんは田んぼをいっぱい持っているから大変だって、は、な、し。それに比べて、孫は苦労知らずでしょ」

「そんなことない。このくらいは手伝うよ」

右手の親指と人差し指を指一本ぐらいの間隔を開けて、さゆりの前に指し示す。

「でもさ、じいちゃんの田んぼはさ、田んぼも畑も作れるけど、ばあちゃんの兄ちゃんが持ってる田んぼから、前に何だか変な物がいっぱい出てきたって、じいちゃんもばあちゃんも近所のおっちゃんもわぁわぁ言ってた。最近になってそれがどんなものだか分かったって。ただただびっくりだって」

「なにさ。そんな話、聞いとらんけど」

「ここだけの話な。縄文時代だか、弥生時代だか、石器時代だか知らんけど、昔の食器や住居跡が出てきて、もう、埋め戻して田んぼには使えんかも知れんて。困ったって」

「リュウト君の所から出てきたら、農家、継がなくてよくなって、良かったのにね」

「まだはっきりせん話じゃけん、誰にも言うたらアカンでぇ」

ホームルームの時間、四宮先生はゲンタ達のいじめを単刀直入に注意した。

「自分の持っていない物や能力を他の人が持っている時、それをうらやましく思うのは人として当たり前のことです。自分の持っていないものを持っている人や、前を行く人をうらやましく思うから、追いつきたい、追い越したいと思って、だからこそ、自分もさらに前に行けるのです。他人をうらやましいと思う気持ちは、自分が一歩ずつ前へ行くために、勉強をしたり、練習をしたり、努力を重ねる原動力になります。でも、自分が一番前に出るために、自分の前を行く人を転こかしたり、いじめるようなことは断じていけません。そして自分とは異なるところを持ち合わせた人が、身近にいることをもっともっと大切にしましょう」

誰が誰にという具体的な名前は出していないが、誰が誰にしているいじめかは明らかだった。四宮先生が教室を出て行ってから、ゲンタ達がはるなを取り囲み、リュウトが言った。

「おい、おまえ、先生にチクったな」

みやが、「自分が悪いんじゃない!」と割り込んだ。リュウトがはるなの肩を突き飛ばした。はるなはひょろひょろとよろけて机にぶつかった。みやが、「何するらぁ」とリュウトの胸に一発げんこつを見舞った。それを見てゲンタがみやの顔を殴った。「みやちゃん」と、はるなが叫んで、ゲンタのみぞおちをげんこつで叩いた。服を引っ張り合い、殴り合い、はるなとみやの二人対男子三人の取っ組み合いのけんかになった。椅子や机にガタンガタンとぶつかった。ほかの生徒たちは遠巻きにしていた。

「やめて! 先生を呼んでくるわよ」とさゆりが叫んだ。誰かが机にぶつかり、上に乗っていたランドセルが大きな音を立てて床に落ちた。みんなびっくりしてそちらを振り向いた。けんかは中断した。

放課後、はるなはみやを山田に教えられた洞窟へと誘った。

「私だけが知っている秘密基地を教えてあげる」

それを聞いていたちさとさゆりも、「私たちも行きたい」と言った。

「猫神さん、教えて貰ったお礼。一緒に行こう」

「うん」

「いつ行く?」

「それどこにあるの?」

「どんな所?」

「お弁当、持って行った方がいい?」

「お菓子もいるかなぁ」

はるなが、ジーパンで、できるだけ手ぶらに近い方がいいと答えた。結局、週末に猫神さんで待ち合わせて、四人で洞窟に向かうことにした。

「歩いてく? それとも自転車?」というみやの問いに、はるなは近いとは思うけど、この前は途中まで車で行ったので、自転車の方がよいと思うと答えた。