十五年前。

「要救助者、発見!」

特別救助隊員として工事現場の崩落事故に出場した岩原は、現場で足場の下敷きになっていた傷病者を発見した。すぐに、マット型のジャッキで重量物を動かして救出しようとした特別救助隊を、一緒に活動していた救急隊長が制止した。

「待て。ドクターカーの要請だ」

「あのときは、救急救命士の静脈路確保が認められていなかったから、現場に医師を呼んで点滴をとってもらってから救出したんだ」

救急車のドアが開き、菅平が医師引継ぎを終えて戻ってきた。感染防止衣のポケットから缶コーヒーを取り出し、舞子と岩原に渡す。

「今の症例、勉強になったかな」

「……はい。クラッシュシンドロームは、震災時の話だと思ってしまっていました」

「赤倉くんは、救急救命士国家試験の状況設定問題、得意か?」

「はい、まあ……」

救急救命士国家試験は、ABCDの四種類の問題で構成されている。そのうちC問題、D問題は、現場の状況が記載されている応用タイプの形式だ。

「書き出しはいつも、『六十歳の男性。自宅で腹痛を訴え、家族が救急要請した』というように、年齢や性別から始まり、救急要請に至った経緯が判明しているだろう。でも、実際の現場で重要なのは、それ以前のシーンなんだ」

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『東京スターオブライフ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。