【前回の記事を読む】里のために戦い仇を討ったが…神の怒りを受けた姫に起きた悲劇

羅技姫、敵討ちへ

暫くして、羅技姫は眠りから覚めた。身体の震えは止まり、鋭かった眼光は優しい眼差しに代わっていた。

程なくすると湖の波が落ち着き、周辺はすっかり明るくなった。すると何ということだろう。湖面には風神丸、雷神丸と共に、和清や里の武人達の姿が現れた。清姫、紗久弥姫、羅技姫の三人は静かに手を合わせた。

「御父上様。そして武人の皆様。どうか安らかにお眠り下さいませ……」

清姫の言葉に、湖面に居た和清達は笑いながら大きく手を振り、湖の中へ姿を消して行った。と、同時に湖の周りが全て崩れ落ちて、切り立った崖に変わり、水面には白い霧が立ち込めた。

「赤龍が湖に落とした羅技姫の剣が岩肌を削り、領巾はこの湖に誰一人近付くことが出来ぬ様に結界を張ったのだ。御母上の領巾は尊き天より賜った領巾……。父、龍王が赤龍にこの領巾を託した意図が今、分かった。龍神守たつもりの里をとても愛していたのを……」

白龍が静かに言った。

「これでそなた達の里は永遠に守られた。我等はそろそろ龍族界に戻らねばならぬ。その前に、青龍と赤龍の身体の中に留めておる者達を里人達の元へ届けねば」

「おおっ。余は男二人を身体に入れていたのをすっかり忘れていた!」

「余は侍女を入れている」

と赤龍と青龍は口々に言った。龍王の皇子達と龍神守の姫達は里人が隠れている森の奥にやって来ると、赤龍と青龍は重使主、仲根、侍女を身体より出した。白龍は羅技姫が保繁の首を刎ね、和清と武人達の仇を討ち取ったのだと皆に伝えた。里人達は女の衣を着ている羅技姫を見て驚きの声を上げ、里の子供達は羅技姫に駆け寄ると、羅技姫に抱き付いて再会を喜んだ。

「羅技様は男なのに、なぜ女の人の着物を着ているの?」

女の子が不思議そうに尋ねると、

「我は女なのじゃ! 今まで男であると皆をあざむいていた。湖に向かって泣いていたのは里の皆を騙している我が許せずに、月の神に許しを請うていたのじゃ……」

「若様……! い、いえ、姫様は剣や弓や馬の扱いが重使主様、仲根様より勝っていました。姫様だとはとても信じられません……」

とカリが言うと、重使主も仲根もお互い顔を合わせて頷いた。

「華奢な御方だなあ~、と思っていたけれど……」

「剣や弓の腕前や、馬を自由に乗りこなしていたぞ。重使主様や中根様も、羅技様には敵わなかった……」

シギとツグミは口々に言った。するとカリも、

「今のお姿はとても綺麗だなあ! 以前湖で見たお姿は天女かと思った。野や山を駆けるのは何時も裸足で、それに木登りは俺達より上手かった!」

と目を細めた。

「ふふ~ん。皆は、我が女だと申しても信じられぬ様じゃな! ここは一つ分からせてやろうかのう!」

「羅技姫よ? その意味有り気な顔は何をしようと考えておるのじゃ?」

赤龍が怪訝そうな表情を見せた。

「では、本当に女であるか皆に見せて進ぜよう! それにしても、この衣は着るのは面倒だが、脱ぐにはとても簡単じゃ!」

若者達は羅技が衣を脱ぎだすと、思わず顔を真っ赤にしました。赤龍は慌てて羅技姫を抱き寄せ、衣を整えた。

「素肌を見せるのは余一人だけで良い!」

赤龍と羅技姫のやり取りに白龍は大笑いし、一同は言葉を失い茫然と立ち尽くしていた。里人達がおろおろしていると、赤龍は真っ赤な光を放ち、辺りはその光に包まれた。光が消えると赤龍は龍体に姿を変え、羅技姫をポイと背に放り上げた。