【前回の記事を読む】人よりラクダの方が価値が高い?中東旅行で知っておくべきこと

自然のなせる脅威……自然を相手とする時はそこの土地の正確な情報を掴むこと

これはモルディブ共和国に赴任して間もない頃に経験したことです。

ご存じの方もおられると思いますが、モルディブ共和国は赤道直下のインド洋に浮かぶ二十六のサンゴ環礁と、それを形成する千二百あまりのサンゴ礁からのみ成り立っている島国です。

そして時期によって、北東または逆の南西の季節風が吹き、それに伴う表面海流と環礁群に起因する深層海流の急上昇のため、また主な地質がサンゴであることにより、世界でも有数の透明度を誇る海水域に囲まれています。そのためモルディブは、世界的なスキューバーダイビングスポットとして有名です。

[写真1]建設現場付近の水深約3メートルの水中写真。1992年当時海水温上昇によりサンゴの白化が進んでいた

私が赴任後、一ヵ月ほどが経ち、メイン事務所のあるマレ島から二百五十キロメートル離れた新しいプロジェクトを開始する離島へ到着したとき、現地人に混じってドイツ人の家族らしき人たちが泣きながら、島の管理者にしきりと何かを訴えている場に遭遇しました。

事情を確認したところ、サンゴ礁の生態などの調査のために潜水していたドイツ人ダイバー二人が潜水可能時間を過ぎても戻ってこないということでした。

教訓

各種の資料によると、サンゴ礁は海流などの影響で海面下は非常に特殊な形状をしていることが多いとされています。モルディブもその例にもれず、サンゴ環礁の外洋側では海岸線から続く浅瀬の端から三百メートルほどの沖合では、水深が千メートル近くに達する場所もあるのです。

その特殊なサンゴ礁の代表的な形状としては、キノコのように上部は大きく広がっている場合もあります。

その上には千人以上の人間の住む村ができたり、二千メートルクラスの滑走路を持つ国際空港島に加え、小型プロペラ飛行機向けの空港や通信設備などが構築されたりしている島もあります。

しかしいったん海中に目を向ければ、それらを支える柱部分の外洋側は、かなり削られており、付近の海流は大変複雑で、ダイビング目的で訪れた観光客は、潮の流れや海底の形状などに熟知した現地のガイドの指示に従って行動することが重要だとされています。

モルディブ人担当者に聞いたところ、「今回の場合、時期的に季節風が強まり、潮流が速くなって危険度も増していたことに加え、二人のダイバーが潜水した外洋に面したエリアの地形はかなり複雑で、それに伴い、海表面から深部に至る海流も大変複雑で、サンゴ礁の傘の下へ入り込むと天井部分に吸い付けられて動けなくなり、逃げられなくなる場合もあるので要注意である。

二人のダイバーも強い潮流に巻き込まれて、身動きができなくなったのだろう」とのことでした。

この二人のダイバーに関しては、私がモルディブに赴任していた期間、約二年を経過しても何も発見されませんでした。