私が歩き出すとラクダも歩き出し、お互いに顔を見合わせ、相手の様子を窺いながらゆっくり近づき、道路の両側をにらめっこしつつすれ違った瞬間、ラクダは猛ダッシュしました。先を越されたと思った私が、少し離れてから振り返ったら、なんとラクダも同じように立ち止まってこちらを振り返ったではありませんか。

私は思わず非常に親しみを感じて手を振ったのですが、ラクダは無視して今度は悠然と歩き去っていきました。

教訓

中東などのアラブ諸国ではラクダは大変貴重で、価値のある動物です。

交通事故などの死亡事故での保障金額は外国人作業員より高額であるケースもあります。そして一般には動きが遅く、のんびりした動物であると思われがちですが、愛嬌もあり、人間を警戒する心もあり、それにもまして人間とよく似た行動をする動物だということがわかりました。

外国人は車に乗っているとき、決してラクダや牛の通行をじゃましたり、いたずらなどをしてはいけません。

そしてもう一つ、イスラム教国での「左手」の問題があります。

簡単に言えばイスラム教国では左手は「穢れた手」となります。このことは今では知っている人も増えてきたようですが、私の経験ではまだまだ少ない、というところです。

たとえば、人の頭には神が宿っていると信じられているため、子どもといえども頭をなでること、それも左手でなでることは避けましょう。

このように、普段宗教的習慣というものにあまり縁がない日本人にとっては、わからない、信じられないことがたくさんあります。

少なくとも訪問国の宗教、国民の習慣くらいは、ある程度学び、認識してから行ってもらいたいと思います。そうしないと、思わぬところでその国で仕事をしている人たちに大きな迷惑をかけることにもなりかねません。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『アテンション・プリーズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。